その上司、俺様につき!
「営業なんて男社会中心なのに、一度もへこたれなかったしさ。ガッツあるよ、マジで」
「……あんまり嬉じぐない」
(それって、男勝りって言われているようなもんじゃない……)
かろうじて拾った単語から、支離滅裂な連想が脳内に広がる。
「私は女だもん……」
そうだ。私は女性だ。桜井さんと同じ、女性なんだ。
身の程知らずにも、出会った時から桜井さんのことはライバルとして意識していたのだろう。
女性として久喜さんの隣に立ちたかった。
部下として能力を認めてもらうよりも、女性として彼に選ばれたかった。
私にとって彼女は、久喜さんに選ばれる可能性がもっとも高い存在だった。
「どうぜ、私には働ぐじが、脳がないでずよ……」
「いや、そういう意味じゃなくて!」
私の愚痴の方向が怪しくなってきたせいか、飯田君が焦っている。
「ごべんねぇ……迷惑ばっか、がげじゃって……」
夢とうつつの狭間で、かろうじて謝罪の言葉を口にした。
自分でも面倒臭い女だなと思う。思うが、ぼやきと文句は止まらない。
「いや、それはもういいって。俺、お前の役に立てるの嬉しいから―――」
「……ぞうなの?」
むくっと顔を上げて飯田君を見たけれど、半分以上落ちたまぶたのせいで、彼がどんな表情をしていたのかはよくわからなかった。
その時急に頭がズキンと痛み、唸り声を上げて私はまたテーブルに伏せる。
「頭……痛いぃ……」
「おい、もう二日酔いかよ!」
私のために店員に冷たい水を注文してくれている飯田君を尻目に、私は誘われるまま深いまどろみの渦へと引き込まれていった。
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