その上司、俺様につき!
「そ、そっか……どうしよう……」
その時ピンと、頭の中にアイデアが浮かぶ。
「次の通りに入ったら、右に曲がってもらってもいい? そこに公園があるんだ」
「ああ、わかった。ベンチ的な場所にお前を下せばいいんだな?」
「そうそうそう! お願いします!」
そうして飯田君に連れてきてもらった公園は時間帯のせいもあり、1人では絶対に立ち寄らないであろう、どんよりとした雰囲気が漂っていた。
当然ながら私達の他には、人っ子1人いない。
「あそこか……」
それほど広くない公園なので、ベンチは一箇所にしか設置されていなかった。
遊具も滑り台と鉄棒、ブランコのみしかなく、毎日公園の前を通って通勤している私ですら、ここに公園があったことを忘れるくらいだった。
「下ろすぞー……」
「……お願いします」
丁寧にベンチに下ろしてもらい、息を整えて姿勢を正す。
飯田君はぐっと伸びをして、痛むであろう肩や腕を労わるように撫でている。
普段から太りすぎないように気をつけているとは言え、成人女性を背負って10分近く歩けば、節々が痛んで当然だ。
(なんとかここからは1人で帰らなきゃ!)
そうして気合を入れて一歩踏み出そうとしたのに、すぐによろけて尻餅をついてしまった。
ザリ、と膝に嫌な痛みを覚える。
「だ、だめだ。ごめん、かなり足にきてるみたい……」
「……はぁ~」
無人の公園に響く、飯田君の盛大なため息。
「本当にごめん! あ、でもここからならタクシー呼んで、1人で帰るよ。歩くとあと10分近くかかるし、何より坂道がきついからさ」
もっと早く提案すればよかった。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
終電の時間も迫っているのに、ここまで付き合わせてしまったなんて。
「いいよ……もう、乗りかかった船って感じだし」
そう言いながら、彼は私に手を差し伸べてくれた。
その手を受け取って、私はなんとかベンチに座り直す。
「ご迷惑おかけします……」
お詫びの思いを込めて飯田君にお辞儀をすると、頭にズキッと激しい痛みが走った。
「いったぁ……」
上半身を倒した姿勢のまま、しばらく固まってしまう。
「明日は完璧に二日酔いだな。くれぐれも遅刻すんなよ!」
「……頑張ります」
「ごめん、ちょっと俺も休憩……」
額の汗を拭いながらそう言うと、彼はワイシャツからネクタイを引き抜いた。
そのままドカッと私の隣に座る。
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