その上司、俺様につき!
どう反応していいのか、こちらが戸惑ってしまうくらいの朗らかな笑みだった。
答えの内容が理解できず、うまい切り返しも思い浮かばず、まごついてしまう。
私の困惑を感じ取ったのか、慌てて飯田君が言い直した。
「あー、なんて言うかさ。俺、ずっと後悔してたんだよね」
ふーっと大きく息を吐き、また彼は空を見上げた。
私も飯田君の動作を真似て、同じ方向に視線を向ける。
北極星だろうか。一際空に光る星が、チカチカと力強く瞬いていた。
「2年前さー。俺、何もできなかったじゃん?」
2年前。
その言葉が引き金となり思い出されることと言えば、たった1つだ。
「私が異動になった時のこと?」
「うん」
飯田君は缶コーヒーのプルタブを開けると、口を湿らすように少しだけ含む。
わずかに躊躇いの気配の後、堰きを切ったように、彼の唇から一気に言葉があふれ出した。
「確かに本部にクレームは入ったけどさ。部長が直々に頭を下げに行けば、むしろ向こうに非があったんだし、絶対なんとかなってたのにって今でも思う」
「……飯田君」
「でも思うだけだったんだ、俺は」
今までに見たことがないような、真剣な眼差し。
パキ……と硬質な音がして、私は飯田君の手にある缶がへこんでいることに気がついた。
「結局、思ってたって行動しなきゃ、状況は変えられないよな!」
そう言って私を振り返り微笑む彼は、いつも通りの明るさだ。
でも、いつもの彼からは感じられない不思議な寂しさが、明らかにその瞳に滲んでいる。
「……でも、あの時は何もしなくて正解だったと思うよ。私のために行動するなんて、そんなことしたら部長の反感を買うだけじゃない」
そんな悲しい目をこれ以上見ていたくなくて、咄嗟に彼の行動を肯定してしまう。
「そうだな。俺もあの時はそう思ったんだ。情けないけど、俺は”保身”を取っちゃったんだよ」
「……社会人として、当然じゃない?」
「でもそのせいで、ずっと後悔してるんだぜ? 飯田圭吾一個人としては、最低なんじゃない?」
おそらくそれは、飯田君が私のことを仕事仲間以上に思ってくれているということだった。
確かに私と彼は同僚という壁を越えて、戦友というか、仲間というか……。
他の同僚とは少しちがう、それよりも深い間柄にあるのだということくらい、私も自覚していた。
仕事に私情を挟むな、と口で言うのは簡単だ。
でも、頭で”ダメだ”と理解していたとしても、心は思い通りにいかないことくらい、身に沁みてわかっている。
だからそれ以上はもう何も言えず、私は黙ったままうつむくしかなかった。
答えの内容が理解できず、うまい切り返しも思い浮かばず、まごついてしまう。
私の困惑を感じ取ったのか、慌てて飯田君が言い直した。
「あー、なんて言うかさ。俺、ずっと後悔してたんだよね」
ふーっと大きく息を吐き、また彼は空を見上げた。
私も飯田君の動作を真似て、同じ方向に視線を向ける。
北極星だろうか。一際空に光る星が、チカチカと力強く瞬いていた。
「2年前さー。俺、何もできなかったじゃん?」
2年前。
その言葉が引き金となり思い出されることと言えば、たった1つだ。
「私が異動になった時のこと?」
「うん」
飯田君は缶コーヒーのプルタブを開けると、口を湿らすように少しだけ含む。
わずかに躊躇いの気配の後、堰きを切ったように、彼の唇から一気に言葉があふれ出した。
「確かに本部にクレームは入ったけどさ。部長が直々に頭を下げに行けば、むしろ向こうに非があったんだし、絶対なんとかなってたのにって今でも思う」
「……飯田君」
「でも思うだけだったんだ、俺は」
今までに見たことがないような、真剣な眼差し。
パキ……と硬質な音がして、私は飯田君の手にある缶がへこんでいることに気がついた。
「結局、思ってたって行動しなきゃ、状況は変えられないよな!」
そう言って私を振り返り微笑む彼は、いつも通りの明るさだ。
でも、いつもの彼からは感じられない不思議な寂しさが、明らかにその瞳に滲んでいる。
「……でも、あの時は何もしなくて正解だったと思うよ。私のために行動するなんて、そんなことしたら部長の反感を買うだけじゃない」
そんな悲しい目をこれ以上見ていたくなくて、咄嗟に彼の行動を肯定してしまう。
「そうだな。俺もあの時はそう思ったんだ。情けないけど、俺は”保身”を取っちゃったんだよ」
「……社会人として、当然じゃない?」
「でもそのせいで、ずっと後悔してるんだぜ? 飯田圭吾一個人としては、最低なんじゃない?」
おそらくそれは、飯田君が私のことを仕事仲間以上に思ってくれているということだった。
確かに私と彼は同僚という壁を越えて、戦友というか、仲間というか……。
他の同僚とは少しちがう、それよりも深い間柄にあるのだということくらい、私も自覚していた。
仕事に私情を挟むな、と口で言うのは簡単だ。
でも、頭で”ダメだ”と理解していたとしても、心は思い通りにいかないことくらい、身に沁みてわかっている。
だからそれ以上はもう何も言えず、私は黙ったままうつむくしかなかった。