一途な恋とバックハグ
なんだか気分がいい今日は飲んで帰ろうと目についた立ち飲み屋にふらっと入った。
合席言いかね?と声を掛けてきた角さんという男性と、ポツリポツリと会話を交わしてると趣味が同じ釣りだと知って意気投合した。
休みのたびに沿岸の釣り場で釣りを楽しみ、連休があると少し遠くに行って船を借り海釣りもする。
その場で釣った魚を裁いて刺身で食べるのが最高だと二人で笑った。
角さんは人懐っこい初老の男性という感じだが身なりがきちんとしていてさり気なくブランドスーツを着込んでいる。どこかの会社役員のようだが気さくで楽しい人だった。

釣り談義に花を咲かせているとフラフラと女の子が近付いてくる。
こんな時間に一人で何してるんだと目を向ければ目を丸くした笹川で驚いた。

「こんな時間にどうした?今帰りか?」

「はい、ちょっとお買い物を」

そう言ってショップバックを掲げる笹川にこんなところで会うとはと、驚いたもののちょっと嬉しいと思ってしまった。

「可愛いお嬢さん、一緒に飲まないかい?」

角さんの一言に乗っかった俺は奢ってやるから付き合えと半ば強引に笹川を誘い、次々酒とつまみを勧めた。
美味しいです!と嬉しそうに笑う彼女にまるで愛玩動物に餌付けしてる気分で可愛いと思う自分はおかしいのだろうか?
しかし、今まで避けてきたが、よく見ると笹川は可愛い。
平均より少し低い身長で華奢な体はちょっと強く掴んでしまったらぽっきり折れてしまいそうだ。
目が大きくちょっと童顔で幼い感じも庇護欲を掻き立てられるというか、何より屈託ないその笑顔に惹きつけられる。
俺を見て恐怖に慄く連中ばかり見てきたからか笹川の笑顔は輝いて見えた。
酒で頬を高揚させる彼女に昼間の表情を思い出してドキリとした。

俺は、どうしたんだ?
横から意味深な視線が刺さり振り向くと角さんのしたり顔。

「じゃ、そろそろ帰ろうか。嵯峨野君、しっかりすみれちゃんを送っていきなさいよ?」

と、余計なことを言って角さんは帰って行った。
「また3人で呑みましょう!」なんて、上機嫌の笹川が手を振ると角さんも約束だよ~と手を振り返していた。
じゃあ、俺たちも帰るか、と、笹川の家はどの辺だ?と聞けばここから歩いて20分もしないマンションだと言うから二人並んで歩き出した。

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