一途な恋とバックハグ
・・・・・


あの日の事を思い出しながら家に帰宅した俺は玄関を開けた途端食欲をそそる匂いに腹の虫が鳴る。

「おかえりなさい!佑さん」

「ただいま」

先に帰っていたすみれが夕飯を作って待っていてくれた。
すみれの笑顔を見るだけで仕事の疲れなんて吹っ飛んで行く。
こんな幸せ今まで感じたことなかったな。
あれからそろそろ一年になる俺たちは喧嘩することも無く付き合いは順調で、今じゃ週の半分以上はすみれが俺の部屋に泊りに来る半同棲状態。
ずっとこのままじゃすみれの部屋代がもったいないから同棲しようかと話している。

「遅かったね、仕事終わらなかった?」

「いや、ちょっと用事があったから」

初めは緊張して敬語だったすみれは今や慣れて自然に話してくる。
あの時はほんとに固かったなあ~と昔を思い出してほくそ笑んだ。


用意してくれたすみれの手料理に舌鼓をうちながら他愛ない話をしていたら、部下の前で無理やり笑っていたことを言われてつい憮然とする。

「あ、今日、佑さん頑張って笑顔になってたね?」

「すみれの視線が煩いから仕方なくしてるんだ。仕事中に見つめて来るな」

すみれからもっと仕事中に笑顔を作って社員と交流を持てと散々言われて、仕方なく何とか引きつる頬を上げているのだがあまりうまくはいかない。
こんなぎこちない笑顔を見せられても社員たちも困るだろう。

「え~?だって気になるんだもん。祐さんが笑顔を作る度頑張れって応援してるんだよ?好きな人を見つめちゃダメなの?」

「ぶふっ!」

思わず喉が詰まりそうになって慌ててお茶を飲んだ。
ぷくっと頬を膨らませてなんてかわいい事言ってくるんだお前は!

「し、仕事中に見つめられたら集中できないだろうが!」

「ちゃ~んと仕事してるじゃないですか、かちょお♡」

面白がって茶化してくるすみれを睨んでも彼女が俺を恐れるなんてことはない。
すっかり骨抜きにされた俺はもうすみれに何されても適わない。

「ふふふっ、でも、笑顔の効果は出てると思うよ?最近課長が丸くなったってみんな言ってるんだから」

「…それは、本当か?」

満面の笑みで頷くすみれにホッとした。
無理やりでも笑ってれば周りの印象は違ってくるんだな。
いい方向に進んでるのならそれはすみれのお蔭だ。
こんな俺を変えてくれたすみれはもう俺にとってかけがえのない存在だと実感した俺は、食事後、意を決してすみれの前に手を出した。

「すみれ、同棲の話だが…」

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