浅葱色の約束。




「か、厠の掃除はちゃんとするよ…!」



副長を前に震えるその子が、鬼に食べられる寸前の子犬みたいだ。

この2人の関係って親子にも兄弟にも見えないから不思議なんだよなぁ。



「5日じゃなくとも毎日でも…頑張って磨くよ……、早起きする…」



土方さんもそろそろ何か言わないと、梓が気を失っちゃいますって。

あんた今どんな顔してるかわかりますか?

かなーり怖いですよ。


そんなにも怒っている理由だって梓に対してじゃないでしょう。



「いいか、よく覚えとけ」



子犬はすぐに背筋を伸ばした。

涙目になってるし、でも頷かなきゃと必死に首を上下に動かしてる。


でもその先の言葉が僕も気になった。

だから口を挟まず様子を見ておこう。



「俺はてめえのモンを他人にくれてやるのだけは大嫌いなんだよ」



そこで指す“てめえ”とは土方さん自身のこと。

───…自分の、もの。


まさかと思った。
僕もそれは予想していなかった。

てっきり「悪かった」とか、謝罪に似たものが飛び出すかと思ったのに。



「ちょこまかちょこまかしやがって。また傷増えたらどうしてくれんだよ」



この子は普通よりかなり鈍感なんだから、もっと直接的に言わなきゃ伝わらないに決まってる。

もう君は新撰組の、僕達の仲間以上の存在なんだよって、素直に言ってあげればいいだけなのに。


だから誰にもあげるつもりはないって。



「わかったら返事」


「…は、……はい…」


「聞こえねえ」


「はい…!」



それがこの人のやり方なんだろう。

それにしても「自分のもの」って、いつから梓は土方さんのものになってたんですか…。

今までの女にもそんな言葉を言っているのは聞いたことがなかったから、一瞬信じられなかったけど。


まぁいいか、きっと梓も理解してないだろうし。








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