浅葱色の約束。
「後悔してんのか、近藤さん」
武士になる為ならば親としての道を捨てたような男だからこそ、俺達はついて来た。
それなのに近藤の心には、そんなものが生まれているのではないかと過った。
「…そうなのかも、しれんな」
なにを後悔してんだこの男は。
京に来たことか?
それとも梓を拾ったことか?
それかもっと違う、いずれ来る別れに怯えてんのかこの男は。
「笑ってくれトシ。…俺は鬼にはなりきれんよ」
「…だから俺がその役目を担ったんだろうが」
あんたが鬼にはなりきれなかったから。
そんなこと最初から分かりきっていた。
だから俺が恨まれ役を買って出たんだ。
隣に誰からも恐れられる鬼のような存在が居れば、あんたは周りから慕われるだろう。
「俺からすりゃあ近藤さん。…あんたが一番の鬼だぜ」
あのガキをここに置くことを決めたのはあんただ。
いつか離れるときが来る、いつまでも一緒には居られない。
俺達自身があいつの手を離さなくてはならない日が来るというのに、それでもあいつに愛情を教えてしまったのは近藤さんだ。
それを選んだのはあんただ。
───そんなの立派な鬼だろう、近藤さん。
「その通り、梓にとって一番の鬼は俺だ。
それなのにあの子の純粋さがそうでは無いと否定してくるんだ」
俺が手を差し出せば迷わず掴んでくれる。
疑いもせずに掴むんだよ梓は───。
気付いてるのかこの男は。
これ以上ないくらいに優しい顔をしてることに。