浅葱色の約束。
「もう5日過ぎた。厠の掃除はやらなくていい」
あれから10日は経ったというのに、そいつは毎朝毎朝ゴシゴシと磨いていた。
こういう馬鹿正直なところが嫌いだ。
まぁ反抗したならばそれはそれで倍返しするのだが。
後ろから声をかけた俺に、梓は顔を上げるように手を止める。
「ピカピカじゃねえか。特別な薬でも使ったのかお前」
「ううん、毎日続けてたら楽しくなったんだ。みんなそう言ってくれるから」
「…罰のつもりだったんだがな」
女中にすら厠掃除だけは勘弁してくれと言われるくらい、男ばかりの屯所は地獄だというのに。
こいつは爽やかな笑みを浮かべ、笑っていた。
気付けば眼帯も外されて、一応は完治したようで一安心。
「明日からも日中時間あるから掃除続けてもいい…?」
「…好きにしろ」
「うん。ありがとう土方さん」
なんだこいつ。
礼を言われるようなことはしてなければ、罰を与えた張本人にそんなことをほざきやがる。
胸ぐらを掴んだときはあんなにも怯えてたってのに。
「んで、てめえはいつまでそこに居やがる。厠使わせろ」
「えっ、わっ、ちょっと待って、」
目に光など無かったこいつが怯えるようになった。
驚き、笑い、泣くようになった。
「覗くなよ」
「の、覗かないよ…!!」
そして年相応に照れたような顔は、俺だけのものでいいとも思った。