浅葱色の約束。
『梓ちゃんの為にコツコツお金貯めて、ママ頑張るからねっ!』
健気な女性。
少しやつれた肌を吹き飛ばすように、大きなお腹を撫でている。
まだ10代後半だと思われるほど幼い顔立ちをしているのに、その風貌は母親のもの。
『おーい!いるんだろー!!出てこいよぉ!!』
───ドンドンドンッ!
立て付けの悪いドアから顔を出した、柄の悪い男2人。
『いいから金出せよぉ!あんたの夫の借金がまだ残ってるんだよ!』
『す、すみません…、必ず返しますので』
『お前、どうやら京都から逃げて来たらしいな。夜逃げか?』
『……今日は帰ってください』
この人はきっと、間違いなく、私の母親。
…似ていると思った。
『なんだ、結構持ってんじゃねーか』
それは玄関に置いてあった1つの封筒。
お金を貯めて頑張ると、嬉しそうに握りしめていたもの。
『そっ、それだけはやめてください…!!』
『うるせえ!!』
『きゃっ…!』
その茶色い封筒は呆気なく奪われてしまった。
『じゃーな、来月分も貯めとけよ』
涙を流す女性を抱き締めることも撫でるこ
とも出来ないまま、その小さな背中をただ見つめることしか出来なかった。