浅葱色の約束。




「無理だよ……、これだけは出来ない…」



こいつからしたら赤子というのは一番遠い存在なのかもしれない。

とても近くて、一番に遠い。



「大丈夫だ、心配要らねえよ」



ぎゅっと瞑ったそいつの目が開かれ、揺らぐ瞳は俺を捉えた。


その震える手を包み込む。


こうして愛情は誰かに移っていくもの。

お前もきっとこうして母親から生まれたのだ。

どんな辛い出来事が待っていたとしても、生まれた瞬間に愛情を渡されなかった子供など存在しない。



「お前なら出来る」



頼む、お前にしか出来ない。


そんな俺達の手に重ねられた新しい手は、細く白いもの。

汗に濡れている母親の象徴。

温かく、優しいぬくもり。



「お願い、…私、お母さんになりたいの…っ、」



梓は一瞬目を見開いて。

泣きそうな顔をぐっと堪え、覚悟を決めて赤子の場所へと腕を伸ばした。



「ふ、ふやぁぁぁ…っ」



そこから微かな泣き声が一瞬響くが、それでも直ぐに止んでしまう。

一瞬入った酸素を赤子は懸命に吸ったのだ。


あとは時間との勝負だった。


勝つのは赤子の生命力か、それとも母親の生命力か、あるいは両方か。



「がんばれ、…がんばれ…っ」



梓は腕を伸ばしながら悲鳴と泣き声の中で何度も何度も繰り返す。

布団には大量の血。

震える腕を懸命に伸ばし、命を繋ごうとしていた。



「お母さんに会わせてあげるから…っ!だからがんばれ…!!」



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