浅葱色の約束。




刀を持った新政府軍はその男の後ろまで追い付き、刃を空へ掲げる。



「…駄目…、」



その人はお父さんなの。
まだ子供は1歳のお父さんなんだよ。

あの奥さんもきっとあなたの帰りを待ってる。

だってあのとき、すっごく幸せそうだった。


お母さんになりたいって、あなたとの子供を産みたいって、命懸けで挑んでいた。



「だめ…っ、…やめて、殺さないで……その人を殺さないでーーー…!!」



ああ…もう。

涙で視界がぐちゃぐちゃだ。
私の声は、もう届いてなどいない。



もう…、駄目だ───……。



どうしようも出来ない。
どうすることもしてあげられない。

私だって自分の命すら守れなかった。


こうして抱えられて……馬鹿みたいだ。



「うがぁ…っ!!」



男は背中を深く斬られる。


最後に伸ばした手は何を掴もうとしていたのか。

涙を浮かべ、地べたへと倒れ込むその瞳は最後なにを見ていたのか。



「……あぁ…」



時間が止まってしまったみたい。

血が目の前に飛び散る。

あの日、赤子を誕生させる為に見た鮮明で綺麗な血とは全く違う。


ざんこくだ───…。


もう駄目だと、私も思った。
あの人は殺されるって分かってた。

だって無理じゃないか。


どうしてあんなに人数が多いの、どうして銃を使うの。

卑怯だ。ズルい。



「土方さん…土方さんっ…!赤ちゃん、赤ちゃんの、お父さんが…っ!!ぁぁぁぁーーー…っ」



でも戦にはそんな感情どうでもいいのだ。

知ったことではない。
これは戦いなのだから。


声が枯れそうなほど、私はこのとき初めて「泣き叫ぶ」という言葉の意味と。


「残酷」という言葉を身を持って体感した。








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