浅葱色の約束。
「梓、ゆっくり息を吸って吐いて。大丈夫、大丈夫だから」
背中を擦っても、その安心感で逆に酷くなるばかりだった。
僕だって未だに信じられない。
今にも朔は走って戻って来ると思っている。
「ゆっくり深呼吸するんだ、落ち着いて、大丈夫だから」
初めて親しい人の死を前にした少女。
愛情を知らなかったからこそ、知った時はとてつもない幸福を味わって。
そして失ったとき。
それ以上の絶望が全身を襲う。
「“笑ってくれ”と、最期に言っていました」
全て過去形へと変わる会話。
あんなに元気だった笑顔はもう見れなくなるのだ。
梓は今日だって会っていたはずだ。
だってさっきまで、朔の話をしていたじゃないか。
「井上さんは…?」
僕だって声が震えてしまう。
信じられるわけないだろう、だって朔だよ。
普通の子だったじゃないか。
どこにでもいる、町の子供達の1人。
「…井上さんも、彼と同様…」
ガクンッ───。
とうとう全身の力が抜けて地面にひれ伏した梓。
ポタリポタリと、土がだんだんに濡れてゆく。