浅葱色の約束。




「ひ、…ひじかた…さん…、さく、たろ…が……朔太郎が……ぁぁぁ……っ」



やがておずおずと動かし始めた腕は、男の背中にゆっくりと回って。

涙を隠すように胸に顔を埋めた。



「ぁぁぁぁっ……ぅぁぁぁぁーーー…っ」



人目も気にせず、その腕の中で嗚咽のようなものを含みながら。

そんな声に呼ばれるように「なんだ?」と、城の中から男達はこの状況をぞろぞろと見に来る。


それでも土方さんも気にすることなく。

ただ黙ったまま、男に紛れる1人の女の子を全てのものから隠すように腕の中に閉じ込めた。



「ぅぁぁぁぁぁーーー…っ…ひっ、ぅぁぁぁぁあああ……っ」



その背中に回された細く白い腕は、しっかりと土方さんの浅葱色を握りしめている。


こんなにも声を荒げることが出来たのかと。

こんなにも泣き喚くことが出来る子だったんだと。



「ごめん…朔太郎…っ、ごめん、…ごめんなさい…っ、…私のせいだ…私が…っ!」


「お前のせいじゃない。…あいつがそんな男じゃねえと俺は知ってる」


「…っ…、ぁぁぁぁ…っ」



それでも土方さんはそんな少女の姿をたくさん見てるんだろうなって。

それがどこか悔しいのに、それでもどこか安心もしていて。

彼女には僕じゃなく、あなたがいれば大丈夫だって。


そう思うのに。


泣かせてあげられなかった自分にも嫌気がさして、そうして抱きしめているのが僕だったらどんなに良いだろうって。



「…明日からまた忙しくなるぞ」



コクコクと少女は頷く。



「朔太郎の分も、走れるか」


「…は…い、」


「俺に…ついてこれるか」


「───はい…っ…」



土方さんが腕の力を再び込めると、梓はまた泣き出した。



「───…」



土方さん、あなたもそんな顔するんですね。

というか。


そんな顔、出来たんですね。








< 291 / 464 >

この作品をシェア

pagetop