浅葱色の約束。




───……え?


首を若干傾け、問いかけるように彼は覗いてくる。

そしてもう1度放った。



「…江戸に、来る?」



優しい音色で問いかけられてしまえば、その優しさに溺れてしまいたくなる。



うん、行く───。



そう言って、もうこんな辛い思いなどしない場所へ逃げてしまえたら。

そしたら私はずっとあなたの隣にいるよ。


毎日看病だってする、栄養のあるものだって作る。



「…それも…いいかもしれない…」



沖田さんの生まれた町を見てみたい、東京の昔を見てみたい。


もう銃声に起こされなくてもよくなる。



「僕は辛いんだよ。君を見てるとさ、…痛いんだよ…ここが」



心臓を握りしめるように押さえるその人。

もし私が首を縦に振ったら、あなたのその痛みはなくなる…?



「すっごく苦しい。…いつも頑張って走って、泣かずに走って、それなのに僕は血に染まってゆく君に何もしてあげられないのが……苦しいんだよ」


「そんなことない…沖田さんはいつも私の背中を押してくれるよ」


「ほら、そう言ってくれちゃうんだよ梓は。…僕とおいでよ梓」



もし彼と行けば、土方さんには当分会えなくなる。

あの人はきっと大丈夫だから。
土方さんは大丈夫な人だから。


近藤さんにも謝らなくちゃいけないなぁ。


それでも沖田さんのことは任せてくださいって、胸を張って言おう。



「普通に生きていいんだ。梓は、こんな思いするべきじゃない」



きっと、とても楽しい生活が待っている。

だって戦は無いんだから。


それでも、それでも……


涙が止まらなかった───…。



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