浅葱色の約束。
知ってる?近藤さん。
あのときのおにぎり、どんなに美味しかったか。
少し不恰好で、でこぼこしてて。
大きいなぁって、この人が握ってくれたんだろうなぁってすぐに分かった。
具が無くても何も気にならなかった。
私、あんなに美味しいご飯を食べたのは初めてだったんだよ。
「それに私は1度死んでるから…だから怖くも何ともないよ…平気だよ…、だから───」
「梓……!!!」
初めてこの人が声を上げた。
いつも質問をそっとなげかけてくれるように、目線を合わせて話してくれるこの人が。
肩が跳ねた私に、優しく微笑んでくれる。
「…だったら尚更じゃないか。梓、この時の為に“来た”のなら……、
尚更、俺の為に生きなきゃいけない」
その目は局長でも、武士でもなく。
「娘に命を落とされて哀しまない親が……どこに居るというんだ」
初めて会ったときのようにその頬を優しく撫でてくれる───ただ1人の父親だった。
あぁ…やっとわかったよ近藤さん。
あのときの温もりの正体が。
『───…あったかい…』
あなたは最初から、あのとき、あの瞬間から、私のお父さんだった。
「離しなさい、梓」
「嫌だ、」
「…離しなさい」
「嫌だ…っ!」
外を取り囲む軍隊。
ダンダンと戸を叩く音。
近藤さんは強めに土方さんへと私の体を突き飛ばす。
ポスンと受け止められる中、再び向かおうとした足が止まった理由は1つ。
「っ…、」
近藤さんが涙を流していたから。