浅葱色の約束。
「近藤さん、…近藤さん、」
歩き始めた子供のよう、ゆらゆら震える足取りで手を伸ばす。
その手は掴まれることなく。
「まだ近藤さんに言ってないこと…いっぱいある…っ」
まだ話したいことたくさんあった。
伝えたいことだってあった。
ありがとうっていっぱい言わなきゃいけない。
だけど彼は堪えるように私を突き放す。
親として、子を突き放す。
「最後くらい……親の言うことを聞かんか───!!!」
ダァン───ッ!!!
門が大砲によって無理矢理に開けられ、ぞろぞろと兵士が入ってくる。
近藤さんは畳を上げて、床下の通路を通れと指図した。
「トシ、後は頼むぞ」
土方さんは私を抱えてそのまま床下へ共に体を落とす。
意識はたぶんもう半分は無かったと思う。
それでも手を伸ばして、その人へと最後に言った私の言葉は。
「近藤さん、…近藤さん、
───…おとうさん…っ!!」
その、たった1回。
この人の前でそう呼べたのは。
聞こえていたのか、いないのか。
そこはもう分からないけれど。
ずっとずっと……そう呼びたかった。
「…ありがとう。」
優しく笑う父はいつだって寛大で、いつだって真っ直ぐで。
最後見た笑顔はこれ以上ないほどに笑っていて。
彼は、後悔など何も無いように。
ただ心配事があるとするならば。
少しだけ感情表現が薄く、それでいて頑固な娘が自分の親友と仲良くやってくれるか。
彼が最後に思ったことは、そんなところだろうか───。