浅葱色の約束。
「お待たせしました、お茶です」
「…なめてんのかてめえは」
そのテーブルにあったとっくに冷めきった湯飲みを土方さんの前に差し出す。
またギロっと睨むように見つめられても負けちゃ駄目だ。
「お茶は舐めるものじゃなくて飲むものだよ土方さん」
ははは、と私の笑い声が広い彼の書斎に響いた。
だとしても一向に手をつけようとしない。
そこまで意地を張る必要がどこにあるの。
どうせ今日もあの人と楽しく話してたくせに。
新撰組じゃなくなった途端、そんなにも簡単に女を部屋に上げるの。
指揮官なら何してもいいの。
「…自分は良いんだ」
「あ”?」
「…なんでもない」
この女たらし、ばか、あほ、まぬけ。
土方さんなんか1回誰かに振られてしまえばいいんだ。
いやずっと、これからずっと女にも男にも振られ続けてしまえ。
「…お前、ろくなこと考えてねえだろ」
「……そ、そんなことないよ」
やっぱりこの人は人の心が読めてしまう。
思わず目を逸らした。
「───はぁ…」
土方さんは諦めたようにため息を吐くと。
グイっと一気にそのお茶を飲み干して「茶を煎れてくれるか」と、嫌味ったらしく言ってくる。
「土方さんのばか……っ!!」
「あっおい!てめえ茶はどうした!!」
飲まないと思ってた。
最後まで他人が煎れたお茶は飲まないと思っていたのに。
そりゃあ私も勝手だと思う。
言ってることが矛盾しすぎている。
「煎れてくる!うっすいやつ!!ぬるくてうっすいやつ煎れて来ます…!!」
「…切腹だなあいつ」
ああ、もう嫌だ。
とりあえずお茶は用意しますよ、それでいいんでしょ俺様副長さん。
「つうか馬鹿ってなんだ。そりゃ俺の台詞だろうが。易々と触らせやがって…あの馬鹿。
あいつ───…反抗期か?」
そんな男の呟きは、少女には聞こえていない───。