浅葱色の約束。




「ったく、なにしてんだよ」



気付いた時には女は部屋を出て行って。

ペタリと床に座る私に近付いた土方さんは、目の前に散らばる資料を手にするようにしゃがんだ。


目の前に土方さんがいる。

彼は私の顔を見つめ、吹き出すように笑った。



「なんつう顔してやがんだ」



ホッとしたような、それでいて泣きそうな顔。

だとしても土方さんの顔が真っ直ぐに見れない。


あれ…?前はこんなこと無かったのに…。


例え自分とはものすごく差のある端正な顔立ちだったとしても、目を合わせられたのに。



「…で。てめえは小姓を辞めちまうのか」



そんなこと、知ってるくせに。

海の先を見に行こうって言ったのは土方さんだ。

もう離すなと言ったのもこの人だ。


いつも土方さんの方が強く手を握りしめるのに、「離すな」なんて言う。



「…辞めるわけ…ないよ、」



思わずぷいっと顔を逸らす。

あんな思いしたんだ、これくらい許される。


でも、所帯を持ちたい女って誰なんだろう…。


気になって今日は眠れない気がする。



「なんで逸らす」


「い、いいから土方さんあっち行ってて…!」


「てめえが書類落とすから拾ってやってんだろうが」



こっち向け、と土方さんは言ってくる。

それでも無視を続ける私に、とうとう彼はぐいっと無理矢理に顔を合わさせた。



「それにさっきのあれはどういう───…熱でもあんのかお前」


「……ない……と、思う…」


「…真っ赤だぞ」



覗き込んでくるその顔がやっぱり見れない。

顔は熱いし、ドキドキと鼓動は早くなる。
それでも両方とも嫌なものじゃない。


本当は薄々気付いていた。



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