浅葱色の約束。




地面に湿った血はどちらのものか。

腕の力を少しだけ緩めると、小さな命はゆっくり立ち上がった。


キィキィ───…。


小さな声を鳴らして、山へと戻っていく。
その先に必ず親がいると信じて。

良かった…たぶんあの子は大丈夫。


……でも。



「……いたい…よ…、」



土方さん、息はできるの。

まだ呼吸はできるけどね、もう身体中が痛いの。


落ちた打撃で額から血が垂れている。

左足からも血はどくどくと流れ、傷は浅くとも痛みが尋常ではなかった。


こんなの今までだって何度もあったのに。



「いたい……っ、…土方さん、いたい…」



骨折だってした、脇腹を刺されたことだってあった。

それでもなんとか回復したのは。


それはいつも近くに誰かがいてくれたからだった。



「…ひじ、…か…た…、さん……」



もう駄目かもしれない…。

今まで運良く助かってきたが、そんなに甘くはない現実。

だって私は一番最初、トラックに轢かれて助からなかったのだ。


どこまでも青く広がる空は、初めて見た景色と似ていて。



「…おとーさん……おきた、さん……、さく…たろ…」



ここで誰かに見つかったとしても、見つからなかったとしても、確実に助からない。

せめて最期なら、彼の声が聞きたかった。



「ひじか…、た……さ…ん、」



『───梓、もう俺の手を離すんじゃねえぞ』



約束を守れないかもしれない。

あんなに嬉しい約束をしてくれたのは、あなただけだった。

哀しい約束ばかりの中で、土方さんだけは違った。



「ごめん…ね、…ひじ、かた…さん……、ひじか…た……さ…ん、」



もう「助けて」すら言えない。

命の最期はこんなにも呆気なく訪れてしまう。



「…会い、…たい……、ひじか…た……さ───…」



朦朧とする意識がプツリと途絶えた───…。








< 383 / 464 >

この作品をシェア

pagetop