浅葱色の約束。
町を歩いていれば普通の町人だと間違われるような、それでいてやっぱり綺麗だから女の目を一瞬で惹いてしまうような。
そんな、着流し姿で。
“お嬢さん”なんて、初めて言われたよ……。
「………ひ、…かた、…さ…、」
あれ、おかしいな。
言葉ってどうやって出すんだっけ。
喉から…出さなきゃ。
なのに心臓が痛くて涙ばっかり溢れて、今だって立ってるのがやっとで。
それでも彼は、私が話すのをずっと待ってくれていた。
「…お、おかしいの、今日…ちょっとだけ遅くに目、覚めてね……っ、」
「あぁ」
話さなきゃ。
たくさんあったの、言いたいことも聞きたいことも。
でもいざ前にすると何も言えなくなっちゃって。
なんにも変わってないなぁって思うのに、変わってなくて良かった、とも思っちゃって。
「…それで、…お魚屋さんで鱚(きす)をおまけしてもらっちゃって…」
「特上じゃねえか」
鱚って、どういうふうにお料理したらいいか分からないから、どうしようかなぁって思ってたんだよ。
だから近所の人に聞こうって思ってたの。
そうやって今までやってきた。
「なんかみんなして、…お見合い相手勧めてきて…っ」
「…受けてねえだろうな」
そしたらビー玉が帰ってきて。
今日はきっとおかしい日だから、私…まだ夢を見てるのかもしれないの。
だって───…
「目の前に…っ、…居ちゃいけない人が…」
「ったく、勝手に殺してんじゃねえよ」
そうやってちゃんと返してくれちゃうんだもん。
今までどんなに声をかけても返事なんか無かったのに。
ここに来て。
今日はこんな日だったよ、とか、
こんなことがあったんだよ、とか。
土方さん、土方さんって何度呼んだって「なんだ」って返事は返ってこなくて。