〜トラブル〜 黒のムグンファ・声を取り戻す旅
第6話 ソン・シム
技術・機材班リーダーのソン・シムは40代後半の好人物だ。
仕事にプライドを持ち、デジタル班、美術班の実質的リーダーでもある。
職人肌だが人情派で、部下の信頼は厚い。
大道具はメンバー達の人気が急上昇するにつれ、オーバーワークになって来ていた。
代表に、人手不足を訴えたらトラブルが来る事になり、しかも、時々メンバー達の健康管理に抜けると言う。素人で、女で、メンバーや上と繋がっているなんて、使いづらいの極みだ。
「いない方がましです」
代表にそう言ったが聞き入れて貰えなかった。
(せっかく、鬱々と不満をためていた、あいつらにリハーサルモデルの役割を与えて、自分達もこの会社を、このスーパースターを支えている1人だと自覚を持ち始めていたのに……)
「とにかく使ってみろ」の一言に押しきられてしまった。
代表はスタッフを大事にする。
スタッフの意見は相手がどんなに下っ端でも、真剣に聞き、真剣に答える。
どんな反対意見も誹謗中傷もまずは聞く。
聞いて貰えると、人は代表に心を許し、代表の話しを聞くようになる。
だから、トラブルの事は心外だった。
(俺を試しているのか? 仕方ない。契約期間中だけだし、しょせん女だ、すぐ逃げ出すだろう……)