〜トラブル〜 黒のムグンファ・声を取り戻す旅
第8話 トラブルの始まり

 トラブルと新人は、夕方、作業を始める。
 今日は新人の口数が少なく、順調に作業が進んだ。

「お疲れ様でしたー」と、方々から聞こえ、人の気配が消えて行く。

 夜9時。社内の明かりは落とされ、暗い廊下にメイク室の明かりだけが四角い影を作る。

 最後の壁紙を貼り終え、トラブルは手早く片付けを始める。

 床のゴミを拾う為に這いつくばっていると、後ろに気配を感じた。トラブルはとっさに立ち上がろうとするが、1秒、遅かった。

 新人が背中に抱きつき、そのまま前へ押し倒された。左手で口を塞がれ、右手で片胸をわしづかみにされ、激痛が走る。
 耳の後ろに新人の荒い鼻息を感じた。

 トラブルはもがきながら、左肘で新人を力いっぱい小突く。
「ぐっ」という声と共に腕がゆるみ、トラブルは素早く立ち上がった。

 お互い、肩で呼吸をしながら、対峙(たいじ)する。

「口を塞ぐ必要はなかったな……」

 新人は目を血走らせて真正面から迫ってくる。
 トラブルは脇からかわして逃げようとするが、すぐに強い力で腕を(つか)まれ捕まった。

 身長差20センチ。(あがら)うが敵うわけもなく、窓に叩きつけられる。

 ブラインドがガシャーンと派手な音を立てた……。

< 23 / 64 >

この作品をシェア

pagetop