〜トラブル〜 黒のムグンファ・声を取り戻す旅
第8話 トラブルの始まり
トラブルと新人は、夕方、作業を始める。
今日は新人の口数が少なく、順調に作業が進んだ。
「お疲れ様でしたー」と、方々から聞こえ、人の気配が消えて行く。
夜9時。社内の明かりは落とされ、暗い廊下にメイク室の明かりだけが四角い影を作る。
最後の壁紙を貼り終え、トラブルは手早く片付けを始める。
床のゴミを拾う為に這いつくばっていると、後ろに気配を感じた。トラブルはとっさに立ち上がろうとするが、1秒、遅かった。
新人が背中に抱きつき、そのまま前へ押し倒された。左手で口を塞がれ、右手で片胸をわしづかみにされ、激痛が走る。
耳の後ろに新人の荒い鼻息を感じた。
トラブルはもがきながら、左肘で新人を力いっぱい小突く。
「ぐっ」という声と共に腕がゆるみ、トラブルは素早く立ち上がった。
お互い、肩で呼吸をしながら、対峙する。
「口を塞ぐ必要はなかったな……」
新人は目を血走らせて真正面から迫ってくる。
トラブルは脇からかわして逃げようとするが、すぐに強い力で腕を掴まれ捕まった。
身長差20センチ。抗うが敵うわけもなく、窓に叩きつけられる。
ブラインドがガシャーンと派手な音を立てた……。