〜トラブル〜 黒のムグンファ・声を取り戻す旅
「たしか、トラブルをかばって刺されたって……」
ノエルは下を向いたまま言う。
「それだけじゃない」
セスは話を続けた。
「9歳で韓国に引き取られたって、おかしくないか? 国際養子縁組を調べてみたが、たいていは乳児なんだ。赤ん坊の方が言葉や習慣の壁がないから。それか、高校生くらいの分別のつく年齢になって、自分を支援してくれていた家庭に入るとかなんだよ。まだ、小さい女の子が韓国に行きたいと言うか?もし、希望したとしても、小さい子の言う事を真に受けるか?」
「セス、何が言いたいんだよ」
「パク先生が言わなかった過去が、まだあるんじゃないか……」
「例えば?」
「……人身売買とか……もし、パク先生の知らない過去があるなら、トラブルは隠し通そうとする」
昼食時、代表とマネージャーが宿舎にやって来た。
「久しぶりに来たなぁ。よ、お疲れさん」
メンバー達は代表の話を聞こうと身構えた。しかし、代表から出た言葉は「まず、メシを食おう」だった。
人数分買って来た、テイクアウトの中華料理を全員で食べる。
食べ終わると、代表はマネージャーにアイスを買ってくるようにと、お金を渡した。
代表はいつも、ストレスやプレッシャーを感じているスタッフに甘い物をススメる。
マネージャーは宿舎を出て行った。
「さて、本題に入ろう」と代表は昨夜の出来事を聞いてくる。
まずは話しを聞くのが、この人流だった。
ゼノが、見た事を話した。
下の3人がヤジの様な合いの手を入れてくる。
トラブルを追い掛けた、セスも話した。
「階段を降りて行ったところまでは見た。すぐに見失った。すごく早くて……。駐車場だろうと目星を付けて追い掛けたが、すでにバイクはなかった」
話は終わり、代表は考えた。今の話ではなく、なんと言おうかと。
「トラブルは、今日、普通に出勤して、今、仕事をしている」
セス以外は「はぁ?」と拍子抜けした顔をした。
「セス『やっぱり』という顔をしているな」
セスは頷いた。
代表はひと呼吸置いて、話しを続けた。
「ゴンドラのテストをしている。様子を見たが、いつもの様だったぞ。俺に話す事はないかと聞いたら『ない』と即答だった。……トラブルが『ない』と言うのだから、『ないフリ』をしようと思うのだが、どうだろうか?」
ゼノ、セス、ノエルの3人には、これが『ないフリをしろ』という意味だとすぐに察した。が、ジョン、テオの2人が口々に反論した。
「犯罪を見逃すんですか⁈」
「そんなの、変だ!」
「会社の保身の為でしょう⁈」
代表は「これは見せるつもりはなかったのだが」と言いながら、鞄からビニール袋を取り出した。
テーブルに音を立てて置く。それは、例のカッターナイフだった。
刃先はしまわれているが、血液が付着しているのが見て取れる。
メンバー達は息を飲んで見下ろした。
「今朝、拾って来た。証拠隠滅にあたるかもな。これで俺も犯罪者か?」
代表は鼻でフンッと笑う。