〜トラブル〜 黒のムグンファ・声を取り戻す旅

「分かるな? もう大丈夫だ」

 トラブルはかろうじて(うなず)いた。

 立ち上がるトラブルを手伝おうと、代表が手を伸ばすが、それを振り払い、よろよろと部屋を出て行く。

「おい、ヘギョンの所に行くんだぞ」

 手話で返事をして扉を閉めた。



「今のは、いったい?」
「トラブルに何があったのですか?」
「最後、なんて言ったの?」

 メンバー達の質問が矢継ぎ早に飛ぶ。

 代表は呆れた様に答えた。

「トイレに行くとさ」

 手話をやって見せた。

「代表、手話が分かるのですか⁈ 」

 ゼノは驚くが「俺様に分からない事などない!」と、代表ははぐらかした。

 そして、説明した。

「昔の出来事を急に思い出す経験をした事はあるか? 匂いや味や当時の音楽で、あの頃はこうだったなぁ、とか、急に思い出す」

 メンバー達は、ありますと、返事をする。

「あいつは、おそらく血を見て昨夜の恐怖が蘇ったんだ」

「フラッシュバック……」

 セスが呟いた。

「そうだ」と、代表は続ける。

「何かをキッカケにして、恐ろしい出来事が次々に頭に浮かび、もう一度体験している様な恐怖を味わう。で、放っておくと闇に(とら)われ現実に戻れなくなる」

 セスが口を開いた。

「目を開けさせ、頭の中の映像を見せない様にすれば戻って来られる」
「そう!」

 代表はわざと大きな声で相づちを打つ。

「でも、何がキッカケなのか分からなければ防ぎようがないですよね?」
「そう!」

 ゼノの質問にも大袈裟に答えた。

「どんな映像を見ているのかも分からない。言葉が話せるなら、原因となる事や物を想像して避ける事が出来るが、トラブルの場合は全く彼女にしか、分からない」

 代表はメンバーを見回して続ける。

「だから、様子がおかしいと感じたら、あいつのの視界に入り、こっちが現実だと思い出させる」

 セスが鋭い視線を向けて聞いた。

「で、代表はなぜ、手話とフラッシュバックの対処法を知っている?」
(まるで、昔からトラブルを知っているかの様に……)

「ヘギョンからの受け売りだ」

 代表の言葉に、ふーんと、メンバーは納得をしたが、セスは、またはぐらかしたと、感じた。



 ジョンが「冷やせば大丈夫」と言い張り、結局、医務室には行かず、宿舎に帰る。

 ジョンは医務室が嫌いだった。

 アルコールの匂いや注射器を見ると、意味もなく逃げたくなる。

 年1回の会社の健診日はメンバー達で押さえ付けて採血をしなくてはならないほどだ。

 セスは思う。

(トラブルは医務室に行ったのだろうか……?)



 
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