〜トラブル〜 黒のムグンファ・声を取り戻す旅
第15話 後片付け
トラブルは医務室には行かず、トイレで首と手の血液を洗い流して鏡をジッと見ていた。
代表があの場にいて助かったと思う反面、なぜ、メンバー達にあの姿を見せたのだろうと、思う。
乱暴に顔を洗い、第1スタジオに戻った。
皆、片付けをしていた。
メンバー達はいない。
垂直に上がり水平に移動するのは? などとアイデアを出す者もいるが、ソンは今は考えられないと言う。
テストでは、静かに乗り、静かに降りた。
実践的なテストを行っていないのにジョンを乗せたのは俺のミスだと、自分を責めていた。
トラブルを見つけると頭を下げに来る。
以前、バルーンを作った時は、メンバー達の動きや揺れを想定して成功させたのに、今回はそこに思いが至らなかった俺のミスだと、繰り返す。
「全員のミスですよー」とスタッフが慰める。
言葉少なくゴンドラを解体して、今日はもう帰ろうと、解散になった。
宿舎ではジョンが脇腹を冷やしていた。
ゴンドラで『いい子だ』と言われた事、人を呼ぶ時は指をパチンと鳴らす事を話す。
「なんで、僕、いい子って言われたんだろ?」
「落ち着かせるため?」
「年下だからかな?」
黙っていたセスが口を開いた。
「パニックを起こさなかったからだ。恐怖でパニックを起こされると、救助するのが困難になるだろ。まず、落ち着かせて説明を頭に入れて貰わなくてはならなくなる」
「確かにー」
「ジョンは高い所が平気ですからね」
「僕だったらパニクってたよー」
ジョンが手を振る。
「僕だって怖かったよー。飛び降りるのは分かったけどタイミングとか分かんなかったし、すごく揺れたし」
「2人で飛び出した感じだったよ?」
「せーの、とか言ったの?」
「トラブルは言えないだろ」
「そういう意味じゃないしー」
再び、手を振る。
「すごい力で放り出された」
「はあ?」
「本当だって! トラブルがすごい力で僕を抱えて飛んだんだよー!」
ジョンはソファーにダイブしてみせる。
「まさかー」と、メンバー達は大笑いをする。
「本当なのにー」
ふと、トラブルには今日の出来事を話させる相手はいるのだろうか……と、セスは思う。