〜トラブル〜 黒のムグンファ・声を取り戻す旅
第17話 嵐の前の静けさ
  

 その日以来、メンバー達はトラブルを見かけると声を掛ける様になった。

「おはよう、トラブル」
「行ってきます、トラブル」
「これ、どう? トラブル」

 トラブルは相変わらず素っ気なく頭をペコッと下げるだけだが、昼の診察に変化があった。

 目の下瞼(したまぶた)を親指で下げて見る。両手で耳下腺(じかせん)を触る。口を開けさせて喉を見る。と、メンバー全員を一通り、()る様になった。

 振り付けの先生から、医療者の目でメンバーの動きを見てほしいと、頼まれ、練習室にも時々顔を出す様になった。

 トラブルは決して出しゃばらない。

 気づいたことがあっても、プロ達のプライドを傷付けないように控えめに伝える。

 テオが衣装を着けてダンスをしている時、皆とターンのタイミングが合わなくなった事があった。

 どうしても着地で正面を向けないのだ。

「さっきまで出来ていたのに何でだろう?」

 テオが何度練習しても、どうしても少し遅れる。

 トラブルはテオの腰のチェーンを、じーっと見ていた。

 あーそうか!と振付師が気が付いた。衣装のズボンに付いている4本のチェーンで遠心力が掛かっていた。

 力のあるジョンはもろともせず回れるし、体幹を鍛えているノエルは、その遠心力の中心に体重移動を瞬時に行うことが出来る。

 ゼノとセスの衣装にダンスの邪魔になる重いチェーンは、そもそも付いていない。

 振付師はテオのチェーンを1本に外させ、完璧なターンは復活した。



 トラブルが周りのスタッフと、うまくやっているのを見ると、なぜか嬉しくなるメンバー達であった。



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