もう誰かを愛せはしない
外観は古くてお世辞にも綺麗とは言えないアパート。


六畳一間の小さな部屋。


お風呂とトイレが一緒の洗面所。

不味いハンバーグを作った狭い台所。




もっと綺麗な所に住みたいなって思った事もあるけど


礼羽がいたから幸せな空間に変わっていた不思議なアパート。




いつか戻りたいと思っていた部屋はもうない。




あの場所も

思い出も


礼羽も…



もう戻ってこない。





それを改めて実感した。




「まぁボロいけど、住み心地は良かったよな」

「…うん。ボロかったね。たまに変な匂いしたし」

「それはメイサの料理のせいじゃねぇの」

「うるさいな!ライハの足の臭いじゃないの!?」



礼羽と肘でつつき合いながら歩いていた。




笑う時に見える礼羽の八重歯。


その顔が今でも好きだと思った。





「…っ!ライハっ…」



気付くと無意識の内にライハの腕を掴んでいた自分。



あれ…
私、何やってんの?




でも言いたい。

礼羽が好きだよって言いたい…。



また2人であのアパートに住もうって

あの頃のようにずっと一緒にいたいんだよって




そう言いたいのに


翔介の存在と

礼羽の胸に光るリング…


ユウキさんの存在が私にそれを言わせてはくれない。





「…メイサ」



礼羽の腕を掴んで離さない私を、礼羽はもう片方の腕で抱き寄せた。




何でかわからないけど

泣きたくなった…。
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