もう誰かを愛せはしない
上履きからローファーに履き返えて校舎から出ると、自転車置き場の柱に礼羽が腕を組んで寄りかかっていた。



「遅い」

「ごめんね、美佳に捕まってて」

「美佳って誰?」

「朝廊下で会ったでしょーが」

「…覚えてない」



礼羽は首を傾げると自転車に鍵を付け、私の前まで漕いできた。




「ほら、メイサ。後ろ乗りな」

「私、重いよ?」

「知ってる」



失礼な!


礼羽の背中を思いっ切り叩いてから、荷台に跨った。



私が体勢を整えた事を確認した礼羽は、ゆっくりとペダルを漕ぎ始める。



すると後ろから先生の怒鳴る声が聞こえた。




「コラーッ!!2人乗りをするなーっ!!」

「やべっ…逃げるぞ!!ちゃんと掴まってろよ、メイサ」



少し遠慮がちに礼羽にしがみつくと、先生の怒鳴り声が響く校門から全速力で逃げる礼羽。


私達を乗せた自転車は、物凄いスピードで学校から遠ざかっていった。



「ふっ…あははは!!」

「何笑ってんだ?」

「だって怒鳴られて自転車速いっ…!」

「意味わかんねぇよ」



段々とスピードが緩まっていく自転車の上で、私達は声を出して笑っていた。



風から香る礼羽の香水の匂い。


その匂いに胸の鼓動が早くなる。
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