もう誰かを愛せはしない
ドキッと高鳴る音と

ズキッと痛む音が聞こえる胸。



礼羽は私の頬に付いていたクリームを指で拭うとそれをペロッと舐めた。




「メイサは可愛いよ。だから大丈夫。いい男が現れるよ。……俺レベルの男は無理かもしんねぇけどな」

「何、それ。ライハのナルシスト」



…大丈夫なんかじゃないよ。


礼羽といういい男は現れたけど礼羽は私の事、絶対そういう目で見てないもん。



どんなに一緒にいたって、礼羽は私に何を言うでもするでもない。



男と女って、友達として仲良くなりすぎるのは良くないのかな?





「はぁ〜…喰った喰った。腹いっぱい」



礼羽は空になった皿を重ねると、背もたれにもたれた。




「そろそろ帰る?」

「あぁ。そうだな」



会計をしようとバッグから財布を取り出すと、礼羽が伝票を持ってスタスタとレジに向かってしまった。




「今日は私の奢りでしょ」

「いいよ。メイサ、ケーキしか喰ってねぇし」

「ダメ!これはライハへの誕生日プレゼントなんだから」



伝票を奪おうとする私を制して会計を済ませた礼羽。




納得いかないなぁ…


折角喜んでもらおうと思ったのに。




「こういうのは男が払うもんなんだよ。…たまにはカッコつけさせろ」



礼羽はレシートを私の頭に乗せると、自転車を引っ張り出した。




「だってライハ…誕生日なのに」



ブスッとした表情のまま荷台に座ると頭をガシガシと撫でられた。


ちょっと痛かったけど嬉しくて、礼羽に笑みを向けると礼羽は自転車を漕ぎ始めた。




サラリーマンや高校生が行き交う街をすり抜けていく自転車。



荷台でパタパタと足を振っていると、自転車を漕いでいる礼羽が呟いた。



「…なぁ、メイサ」

「何?」



前を向いている礼羽の腕の間から顔を覗かせて礼羽を見上げた。
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