もう誰かを愛せはしない
「じゃあ俺はメイサを色んな所に連れて行ってあげる」



優しく微笑む翔介を見て何となく視線を窓の外に向けた時だった。




「……ライハ…」

「え?」



私の目に映ったのは礼羽。


礼羽は1人でスクランブル交差点を歩いていた。




沢山の人が行き交う街で礼羽を見つけられる私の目には、きっと礼羽が焼き付いている。

礼羽だけを捜している。




「…っ!ショウスケ、ごめん…」



どうしたのかと驚いている翔介を横目に、私はカフェから出て礼羽の後を追った。




群集をすり抜けて礼羽の背中を追う。


どんなに沢山の人がいても私の目は礼羽の姿だけを捕らえている。



見失ったりしない。
礼羽だけは絶対に…。





「ライハっ…!」



やっと追いついた礼羽の服を掴むと、礼羽は後ろを振り向いた。




「…メイサ?」



不思議そうな顔をする礼羽を見ながら、息を整える。





あ…。

勢いで追い掛けて来ちゃったけど何を話せばいいんだろう。



私達はもう、昔のような関係じゃないのに…。




私が困り果てていると、礼羽が優しく呟いた。




「…元気そうだな。よかった」



礼羽は八重歯を見せてニコッと微笑んだ。



すり抜けていく人々が起こす風に乗って、香る礼羽の匂い。


礼羽だけの匂い。


礼羽がそばにいると思えるから大好きな匂い。
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