クローバー2~愛情~
しばらくして、奈津美が隣の部屋から戻ってきた。

「陽平に会ってくる。レストランを予約してあるんだって」

なんだか、嬉しそうだ。さっきまでの奈津美が嘘みたいに。

「そっか。坂上店長、よかったら私の傘、使ってください。一度、家に帰るんですか?」

「ええ。この格好じゃ、ちょっと・・・ね。おしゃれしていくわ。スウェット、ありがとう。洗って返すわ」

「急がなくていいですからね。いい報告、待ってます」

「奈津美さん」

和希が声をかけた。

「奈津美さんは、とても魅力的です。僕にとっては友達だけど、きっと陽平さんにとっては大切な女性だと思うな。自信をもって!」

「ありがとう。じゃあ、行くね」

「じゃあ、坂上店長、火曜日に結果、知らせてくださいね。待ってます」

「いい結果になると、祈ってて」

「はい。じゃあ」

扉を閉めて、ホッと一息ついた2人だった。

「嬉しかったな」

美穂はつぶやいた。

「坂上店長のキス、うまく逃れてくれて」

和希が微笑んで言った。

「美穂がいるんだから、奈津美さんとキスなんかするはずないだろ?僕には美穂しか見えてないよ」

ぎゅっと抱きしめて、キスをした。

「そうだ、ビーフシチュー。食べられる?」

「ん~。まだ、お腹いっぱいだな。美穂、この雨の中だけど一緒に来てほしいところがあるんだ」

「え、どこ?」

「今は、秘密。出掛けられる?」

「オッケイ」

2人はアパートを出て、練馬駅に歩いた。大江戸線に乗って、降り立ったのは青山一丁目。その近くのショッピングビルの2階に2人はいた。

「ここって・・・」

「そう、僕のバイト先のSienaに行くんだよ」

美穂の手を引いて、和希はSienaの前まで来た。

「お疲れさまです」

和希は言った。同僚の店員が

「君が、美穂ちゃん?」

「はい・・・」

ちょっぴり、照れくさい。

「佐倉先輩、例のもの、出して来てくれますか?」

「了解」

トレイに並んでいたのは、キレイなデザインのペアリングだった。

「ステキ・・・これ・・・カズキくんのデザイン?」

和希は肩をすくめて、

「残念ながら・・・尊敬する岡島先輩の一番人気のリングだよ。結婚指輪は、必ず僕がデザインするから、とりあえず、これをはめておいてくれないかな」

「うん・・・うそっ、サイズピッタリ!?」

「実は・・・このあいだ、美穂がうたたねしていたとき、こっそりサイズ、計っておいたんだ」

「全然、気がつかなかった・・・ありがとう」

「これくらい大人しいものなら、CLOVERでつけていても文句は言われないと思う。結婚指輪、つけている人もいるからね」

「うん・・・ずっとつけてる。ありがとう、カズキくん」

「さて、と。お腹も空いてきたし、アパートに帰るか」

照れ隠しのように和希が言う。

「そうだね」

美穂は和希の腕に自分の腕を絡めつけ、ピッタリくっついて歩きだした。
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