新社長と二度目の恋 ~御曹司は私も子どもも離さない~
深琴の現上司―――“小野一月”は高校時代の同級生でもあり、親友として親しい間柄だというのは深琴から聞いている。
25歳の若さで『課長』を任されているのだから、仕事ができる優秀な人材なんだろう。
―――コンコン。
ドアをノックされて「どうぞ」と答えると小野が社長室に入って来た。
「朝一に呼び出してすまない」
「いえ、とんでもありません。高田社長」
小野は俺のデスクの前で足を止める。
「…小日向の異動の件だが、彼女に承諾してもらえた。数日中に正式な辞令が出る」
俺がそう言うと、小野の顔色が少し変った。
「…それは困ります。彼女はウチの課で一番頼れる人材で…」
「それはわかっている。デザイン課には他の人間を入れるつもりだ」
「どうして、小日向を秘書課に?」
「それは彼女が俺にとって必要な人間だからだ。…『仕事』にもね」
「…っ、しかし…昨日の社長室から戻って来た小日向はそんな感じではなかった」
…つまり、『暗い顔色をしてた』という事か。
「…彼女のことよく見てるんですね。さすが『幼なじみ』だ」
「…っ」
小野は『幼なじみ』という言葉に息を呑んだ。
…やっぱり、そういう事か。
俺は小野が深琴へ向けている『感情』を悟った。
「この異動に納得できないなら、小日向を説得してみるといい」
「…わかりました。小日向を説得できたら社長には渡しません」
「……」
お互いを少し睨みつけ、小野は社長室を出て行った。