新社長と二度目の恋 ~御曹司は私も子どもも離さない~
【深琴】
会社。
いつものようにデザイン課に出勤すると、席に着くなり愛花が待ち構えていたかのように話しかけてきた。
「ちょっと!深琴」
「なに?」
「『なに?』じゃないよ!あんた『社長秘書』になるって本当なの!?」
―――ザワザワ。
愛花の大声で課いる社員たちがザワつく。
「愛花、場所を変えるわ。来て」
「あっ、うん」
私たちは空いている会議室に向かった。
「…それで、私が『社長秘書』になるって誰から聞いたの?」
「誰って、一月よ」
「…朝、高田社長が直々に『数日中に辞令に出す』って一月に言ってきたって」
「それで、一月はなんて?」
「…深琴を『渡す気ない』って言ったって」
「そう…」
そこまで言って、私は近くにあった椅子に座る。
「どうしたの?」
「…『秘書』の件は私も承諾済みよ」
「えっ…じゃあ、なんで昨日…あんな顔をしてたの?」
「それは…」
…夏彦と私の関係は正式に結婚するまで、できるだけ秘密するように話し合った。
愛花には前もって話そうと思うけど、タイミングが…。
その時―――
―――ガチャ。
会議室のドアが開いたか思うと、夏彦が愛花がいるにも関わらず中に入って来て私の名前を呼んだ。
「深琴」
「…社長、会社では”名前”で呼ばないでください。他の社員たちに聞かれたらどうするんですか?」
「…わかってる。そう固くなるな」
そう言いながら、私の少し乱れたラウン・ベージュ系でストレートロング系の髪を軽く指先に絡ませてそのまま髪を流した。
「もう…私の髪を触るの好きね」
「お前も…俺に触られるの好きだろ?」
そう言って、夏彦は微笑む。
「…っ、知らないわ…」
私が横を向くと、驚きで体を震わせている愛花に気づく。
「深琴と高田社長は…いったい、どういう―――」
「橘愛花さん」
「はいっ!」
夏彦に名前を呼ばれて、愛花はピシッと背を伸ばす。
「改めまして…大学時代の深琴の同級生であり、昨日ヨリが戻り4年超しに『婚約者』になりました。高田夏彦です」
「随分と詳しい自己紹介ね。夏彦」
私は夏彦の隣で微笑んだ。
「深琴と社長が『大学時代の同級生』。…じゃあ、社長が――」
「うん、夏輝の父親」
「ええっー――!?」
「愛花、声が大きい!」
自分の手のひらで愛花の口元を軽く覆う。
「ごめん…」
「深琴」
「なに?」
夏彦のほうを振り向く。
「橘さんにも俺たちのことを話しておこう。…場所は俺ん家(ち)になったと朔也に連絡をしといてくれ。それと深琴と夏輝は今夜ウチに泊まって行け」
「わかった。昼休みに着替えを取りに行って来る」
「橘さん、急な話で申し訳ないが…」
「いえ、大丈夫です。それと私のことは名前呼びタメ口でも構いません。ねぇ、深琴」
「うん」
「…じゃあ、プライベート時は“愛花さん”と。その時は愛花さんも俺の名前を呼んでくれて構わない」
「はい、それでお願いします。“夏彦さん”」
私はやっと、親友に彼を紹介できた事にそっと胸を下した。