新社長と二度目の恋 ~御曹司は私も子どもも離さない~
資料室。
中に入ると、誰もいない静かな空気が漂(ただよ)う。
「…こんな所に連れて来てすまない」
「いいえ…」
「ここなら、誰でも聞かれる事ないから正直に答えてくれ。お前…本当に『社長秘書』になるつもりか?」
朔也と同じ黒髪で少し雰囲気が違うミディアム系の髪型した一月が真剣な面持ちで私を見つめる。
「はい」
「…じゃあ、『幼なじみ』として聞く。…昨日社長となにがあった?」
「…っ!」
一月の質問にドッキっとする。
「どうして、社長室から戻って来た時…暗い顔をしてた?」
「一月、なにを言って…」
「俺が深琴の様子が変なのに気づかないわけがないだろ!」
「一月…」
…確かに出逢って10年が経つ。
今さらお互いの変化に気づかない浅い関係でもない。
私が夏輝を妊娠した時、一番よく様子を見に来てくれたし…夏輝に“いっくん”と呼ばれて懐かれている。
「本当は嫌なのに…社長に『金は出す』とでも言われて、4年前夏輝の父親に騙されて『金で人を動かす人間なんて大嫌い』って言ったお前が金で『秘書』を引き受けたのか!?」
「それ…本気で言ってるの?」
私は一月の言葉に、少し体を震わせ冷たく聞き返す。
「あっ、いや…違っ―――」
「…社長は『金で人を動かす』ような人間じゃない!」
私は確かに4年前、夏彦のことを勝手に勘違いして彼から離れた。
でも、今はその時の事を後悔してる。
…だからこそ、夏彦が『仕事』でも私を必要としてくれるなら彼の力になりたい。
「…異動の件は私の意志よ」
「そうか、わかった。異動の件はもういい。けど…ついでに言う。深琴、いい加減に“夏輝の父親”のことは忘れろよ」
一月が私との距離を縮めて来て壁ドンをする。
「ちょっと!一月、離れて…―――」
「まだ、”あいつ”のことが好きなのか?お前を騙した男を―――」
「彼のことを悪く言わないで!…なにも知らないくせに!」
「深琴、お前…」
「それに、今の私は彼に騙されたなんて思ってない」
「どうして…」
「今はこれ以上話す気はない。…そろそろ、仕事に戻るわ」
「……」
そう言って、私は一月から離れて先に資料室を後にした。