新社長と二度目の恋 ~御曹司は私も子どもも離さない~
「パパ、この人誰?」
と、夏輝は兄貴の隣にいる男を見た。
「ああ、こいつは…」
「初めまして、夏彦の従兄弟―――雪です。宜しくね」
「僕、夏輝。宜しくね♪“雪くん”」
「…朔也です。姉がお世話になっています」
俺も雪さんにそう挨拶した。
「さて、夏輝。着替えよっか」
「うん」
夏輝は姉貴の言葉に頷いて、兄貴の腕から下りて別の部屋に姉貴と一緒に入った。
「…兄貴」
「…4年間もなにも知らなかった俺を今でもそう呼んでくれるんだな。…朔也」
兄貴は切なそうな声で言った。
「ぐっ…!」
俺は兄貴の胸元に掴みかかった。
「朔也!」
「ダメだ、朔也くん!」
愛花姉と雪さんが俺を止めようとする。
「…殴れよ。朔也」
「…っ!」
「…俺は4年前、深琴を引き留める事も出来ず…ずっと辛い思いをさせた。お前にも…。すまなかった」
…もし、いつか兄貴に逢えたら殴ってやるつもりだった。
でも、俺にはできない。
だって、この男は…姉貴が今までも愛して忘れられなかった男だから。
なにより、俺が唯一“兄貴”と呼んで信じてきた男だから。
「…遅せぇよ。なんで俺たちになにも『本当の事』を言わずに留学したんだよ?【あの小切手】はなんだったんだよ?」
「…これから全部話すよ」
兄貴は「だから、聞いてくれ」と、知らないうちに涙ぐんでいた俺の肩に手を置いた。
それから、俺と愛花姉は『4年間の真実』を兄貴と姉貴から聞いた。
兄貴が実家の事を話さなかったのは、姉貴を本当に愛していたからという事。
兄貴の『幼なじみ』が一方的に姉貴に【小切手】を置いてて、2人が別れたように強要した事。
俺はその話になぜか腑に落ちた。
「兄貴」
「ん?」
「“香織さん”は今なにをしているの?」
「海外にいるはずだ。後は知らない」
「…幼なじみなのに?」
兄貴の隣に座ってる姉貴が言う。
「俺が深琴を傷つけた女に逢うと思うか?」
「夏彦…」
「私もそう事をされたら、絶対に逢いたくないわ!」
「愛花…」
「…姉貴、愛されてるね」
「もう…なに言ってんのよ。さて、夕食にしよう」
そう言って、姉貴は話の間…別の部屋で過ごしていた夏輝と雪さんを呼びに行った。