新社長と二度目の恋 ~御曹司は私も子どもも離さない~
部屋。
「…そうえば、今日は遅かったんだな?」
一月兄とはそう言いながら、持ち込んだ缶ビールを風呂上がりの俺に差し出す。
缶ビールを開けて一口飲んだ。
「姉貴の所で飯食(く)ってた。…話があるって言われて」
「『社長秘書』の話か?」
「ああ、そんなところだ」
…その事は、兄貴が姉貴を自分の目が届く範囲内に置いとくための『口実』だろうな。
「…わからない」
と、一月兄が呟く。
「なにが?」
「高田社長が来たのは昨日だ。なんで、よくも知らない深琴を『秘書』に引き抜いた?」
…いやいや、一月兄以上に兄貴は姉貴こといろいろ知ってるし。
「…本当になにも知らないんだな」
俺は一月兄に聞こえないくらいの声でそう呟いた。
「朔也?」
「なんでもない。…っていうか、話ってその事?」
「いや、社長に『金を出す』と言われたのかと聞いた勢いで…つい、“夏輝の父親”に騙された時の話をしてしまった」
「…ブッ、はぁ!?」
思わず、飲んでいたビールを吹き出しそうになった。
「…あれから今年で5年になるし、『いい加減に”あいつ”のことは忘れろ』って言ったら深琴を凄く怒らしてしまった」
…マジか!?なんというか、タイミングが悪すぎだろ!
一月兄、『社長』が“夏輝の父親”って気づいてるんじゃ…。
いや、昨日の今日じゃないか…。
「朔也」
「ん?」
一月兄、真剣な面持ちで言う。
「深琴は“あいつ”のことを…まだ忘れていないのか?」
それを聞いて、思わずため息を漏らした。
「…忘れた事なんて、この4年間一度もなかったと思うよ。…夏輝は“兄貴”にそっくりだから…。もちろん、それが一番の理由じゃないと思うけど…」
「『一番の理由』?」
「『今でも愛してるから』に決まってるだろ」
「…っ!」
「一月兄、今でも姉貴のことが好きなんだろ?告白もしないでこの4年間なにをやってたんだよ?」
「……」
…とは言え、姉貴が兄貴以外の男を本気で愛するとは思わない。
“高田夏彦”と出逢った頃、俺は『この男なら姉貴を幸せできる』となぜかそう感じた。
だからこそ、彼を信頼し信じて“兄貴”と呼ぶようになっていった。
俺は昔の事を思い出しながら、ビールを飲み干した。