新社長と二度目の恋 ~御曹司は私も子どもも離さない~
家。
「…どうぞ」
紅茶が入ったカップを香織さんの目の前に差し出して、私は彼女と向き合うように座る。
「すみません。いただきます」
「それで、話というのは…」
香織さんは紅茶を一口飲んで、私の問いかけに答えた。
「単刀直入に言います。夏彦と別れてください。…彼には『TAKADAホールディングス』を背負って行かないといけない未来がある。どうせ、あなたもお金が目当てなんでしょ?」
「違うわ!…っていうか、『TAKADAホールディングス』って…」
「あら、知らなかったんですか?夏彦は『TAKADAホールディングス』現社長の息子です」
「…嘘」
「まぁ、『遊び』で付き合っている人に本当の事を言うわけがないか。深琴さん、私は夏彦の『婚約者』です」
「…婚約者」
…ちょっと、待って。
さっきから頭がついていない。
夏彦が『御曹司』であること。
『婚約者』の香織さんのこと。
私はなにも知らない。
「これは…」
香織さんは私の前に【5千万】と書かれた小切手を差し出した。
「おじさま…夏彦のお父さまから預かって来ました。…夏彦の未来のためにも彼のことは諦めてください。言いたい事はそれだけです」
「……」
「お邪魔しました」
と、言い残して香織さんは帰って行った。
翌日。
「深琴、大事な話があるんだ」
大学の帰りに、夏彦は真剣な面持ちで私を呼び止める。
「夏彦?」
「俺、実は『TAKADAホールディングス』の跡取りなんだ」
…ああ、そういう事ね。
もう私たち、終わりなのね。
「…んで、経済について勉強するのに留学したい」
「そう…」
「深琴、俺が留学から帰って来たら…―――」
「香織さんと結婚するんでしょ?」
夏彦は私の口から、彼女の名前を聞いて目を見開く。
「ねぇ、夏彦。どうして、今までなにも教えてくれなかったの?…私とは『遊び』だから?」
「違っ…」
「聞きたくない!…お父さまに伝えて。『夏彦の未来はこれで壊れないから安心してください』って」
「なんで、親父が…」
「…お金ですべてを思い通りにする人間なんで大嫌いよ!」
そう言って、私と夏彦の『恋』は終わった…はずだった。
―――妊娠がわかったのは、その後の事だった。