新社長と二度目の恋 ~御曹司は私も子どもも離さない~
現在。
「…琴、深琴!」
ふっと我に返ると、私の目の前で手を左右に振り心配そうに愛花がこっちを見ていた。
「なんかボーっとしてるけど、大丈夫?」
「うん、なんでない!」
…いけない。
私、なんで昔の事なんか思い出してるんだろう?
もう、夏彦とはなんの関係もないのに…。
「ちょっと!深琴」
「なに?」
「社長がウチの課に来てる!」
ウチの課とは―――【デザイン課】の事。
この会社では、飲食店やホテルの内装デザインを始めとして、新しい家具用品のデザインを考えて業務提携した会社と話し合って、契約を結ぶまでがこの課の主な仕事である。
―――ザワザワ。
夏彦…じゃなくて、社長の登場に課の社員たちがザワつく。
夏彦は私と目が合うと、迷うことなく近づいて来る。
「小日向さん、ちょっとあなたに話がある」
「えっ…」
「―――あの、社長」
と、小野一月(おのいつき)課長が夏彦に話しかけた。
「ウチの小日向になんのご用でしょうか?」
「事前に相談せずにすみません、小野課長。実は…彼女に【秘書課】に異動してもらいたいんです」
「なつ…社長!なにを…」
一瞬「夏彦!」と叫びそうになったが、この場ではそうはいかない。
「まずは、彼女と話がしたいのですが…いいでしょうか?」
「あっ、はい。…小日向、いいな?」
「…わかりました」
私は課長の言葉に承諾して、夏彦の後を着いて行きながら社長室に向かった。