新社長と二度目の恋 ~御曹司は私も子どもも離さない~
【夏彦】
数分前。
「―――社長、失礼します!」
と、ノックせずに田口さんが慌てた様子で社長室に入って来た。
「どうした?」
「実は小日向…いいえ、深琴ちゃんが…」
田口さんが“深琴ちゃん”と呼ぶということは、仕事上の話ではないと悟る。
「総務課の3人と揉(も)めていました…」
「…内容は?」
「お2人の関係を良く思ってないみたいで、『お金目当て』とか夏輝くんは『他の男の子じゃないか?』とかを…」
「…っ」
「それがら、その1人が深琴ちゃんに手を上げようしたようで…」
「……チッ」
俺と深琴の『関係』を公表すれば、こうなる事は予想していた。
なんせ、数か月前に就任したばかりの社長とバリバリと働いていたシングルマザーの一般社員が結婚する事を公表したら…当然、ある事ない事を言われるだろう。
でも…。
夏輝に関する噂と、深琴を傷つけようとする行為は許せない。
―――コンコン。
「―――失礼します」
ドアをノックして社長室に入って来たのは、香純と総務課の3人だった。
「君たちか。…小日向と言い争っていたのは?」
「「「…っ!!!」」」
俺が怒り混じる声を出すと、彼女たちは体を振わせた。
「…これだけは言う。俺たちのことは好きに言ってくれて構わない。けど…『俺たちの息子』に関する好き勝手な噂と、彼女を傷つけようとする行為は俺が今後一切許さない」
そう彼女たちに冷たく言い放った。
「「「…はい、申し訳ございませんでした…」」」
彼女たちは深々と頭を下げて、社長室を出て行った。
「香純、しばらく深琴を1人で行動させるな」
「わかったわ。んで、今深琴どこに…?」
「小野が深琴ちゃんをその場から、資料室のほうへ連れて行ったかと…」
「…っ!」
それを聞いた俺は、嫌な予感がして椅子から立ち上がって部屋を飛び出した。