新社長と二度目の恋 ~御曹司は私も子どもも離さない~
【夏彦】
定時が過ぎて、深琴含む全員のほとんどが帰った後で俺が残業をしている中、社長室のドアをノックする音が耳に入って来た。
―――トントン。
「入れ」
「失礼します、社長」
コーヒーを手に中入って来たのは、定時が過ぎても『仕事モード』の―――彰さんだった。
俺より3歳上の彼は深琴たちがプライベートでも親しくしている事ともあり、俺も最近勤務時間外は“彰さん”と呼ばせてもらっている。
「もう勤務時間外ですよ。彰さん」
「…そう言う君こそ、まだ仕事をしてるじゃないか。“夏彦くん”」
俺がそう指摘すると、彰さんは敬語やめて『プライベートモード』に切り替えてコーヒーを差し出した。
ちなみに、俺は彰さんに対してプライベートでも主にタメ口を使わせてもらっている。
彼曰く、たとえプライベートでも『上司』である俺に敬語を使われるのは違和感があるらしい。
「…いや、今度ウチに来る社員のことで…」
「ああ、確か…『八柳グループ』に勤めてたんだっけ?」
彰さんと会話しながら、俺はデスクから離れてソファーに座る。
俺の後に続いて彰さんも反対側のソファーに腰を掛けると、ほぼ同時にお互いコーヒーを一口飲んだ。
「ん、勤めてそんなに経ってないはずなのに…しかも『八柳グループ』と繋がっている」
「…『なにかの目的あってウチに来た』と言いたいのか?夏彦くんは…」
「…あくまで、可能性の話だ」
“彼”の履歴書を見た時、『八柳グループ』の文字を見て頭の中に一瞬…香織の顔が浮かんだのは、きっと気のせいだ。
「俺も少し目をつけとくよ。―――”島田暁人(しまだあきと)”」
「頼りにしてます。彰さん」
そう言って、俺は再びコーヒーに口をつけた。