新社長と二度目の恋 ~御曹司は私も子どもも離さない~
数日後。
仕事を終えて、1Fロビーに向かっているとある男が俺を呼び止めた。
「――社長」
「小野…」
「…聞きたいことがあります」
「なんだ?」
そう言うと、小野は少し重い口を開くように言う。
「―――”島田暁人”がここに来るというは本当か?…“夏彦”」
小野の口ぶりから『社長』してではなく、『同い年の男同士』として問われると悟った。
「…場所を変えるぞ。“一月”」
「ああ」
深琴に【今日は外で、小野とメシを食べて来る】とメールを送って、『TAKADAホールディングス』が経営にする飲食店の1つに向かった。
店
ドアを開けると、お客が食事を楽しんでいる様子がよくわかる。
1人の――よく知っている男性が俺に気づいて、こっちのほうへ近づいて来る。
ここのオーナーで、親父や八柳おじさんの親友―――“坂上正宗(さかがみまさむね)”。
「いらっしゃいませ、高田社長。今日はどのような件で…」
「今日はプライベートで来たので『普段通り』でいいですよ。坂上おじさん」
俺がそう言うと、坂上おじさんは顔を少し緩めた。
「…そうか。そちらは部下の方かな?」
「ええ、直属ではないですが…」
「いつもお世話になっております。デザイン課の小野一月と申します」
小野…いや、一月は丁寧に名刺を坂上おじさんに手渡した。
「こちらこそ、お世話になっております。私はここのオーナーを勤めている坂上正宗です」
坂上おじさんも丁寧に一月にそう返した。
「…おじさん、個室は空いてますか?」
「もちろん、空いてるよ。こっちだ」
俺と一月は奥の個室に案内された。
お互い荷物置いて、テーブルを挟み向き合うように座る。
「…じゃあ、注文はこれでいいか?夏彦」
「はい」
「小野さんは?」
「…以上です」
「かしこまりました。少々お待ちください」
そう言って、坂上おじさんは個室を出て行った。
「……」
「……」
静まり返った個室で長い沈黙が続いて、それを破ったのは一月のほうだった。
「…坂上オーナーと親しいみたいだな」
「ああ。親父の友人で、俺も子ども頃から世話になってるんだ」
「ふ~ん」
「―――失礼します」
ウエイトレスが個室に入って来て、注文の品を全部テーブルに並べると「ごゆっくりどうぞ」と言ってその場を後にした。
お互いノーアルコールビールを一口飲んだ後、俺は口を開いた。
「…”島田暁人”の話だが、どこで聞いた?」
「“本人”だよ。俺たち高校時代の同級生。…深琴から聞いてないのか?」
「いや…まだ聞いてない」
「深琴を取られたくなかったら、…暁人と2人きりにさせんなよ。どこで知ったのかわからないけど、深琴がウチの会社に勤めてるの、なぜか知ってたし…」
そう会話をしながら、食事をした。
「島田と深琴は…『そういう関係だった』という事か…?」
「ん、未だに気に食わない話だけどな…。深琴の『初めての男』」
「ふ~ん」
そう言って、持っていたビールをテーブルに置いた。
「とにかく、忠告はしたからな。…お前にしか深琴たちを幸せできないみたいだし…」
「…なんか言ったか?」
「…っ、別に!」
…さっき、俺を”名前”で呼んだこといい、『“俺”を認めた』という事か。
そんな事を思いながら、俺は無意識のうちに少し頬が緩んでいた。