新社長と二度目の恋 ~御曹司は私も子どもも離さない~


不安を抱きながら、9月1日を迎えた。


いつも通り会社に出社して、朝の挨拶を交わしながら秘書課に入る。

香純が私に気づいて「おはよ、深琴」と言いながら、私のほうへ近づいて来た。

「おはよ、香純」

鞄を肩から下して、デスクに着いた。

「深琴、これ。人事課の課長が『渡してくれ』って」

香純が私に手渡して来たのは、結婚した際に会社に提出する書類だった。

「ありがとう。住所変更は引っ越した時に雪さ…副社長がコッソリ差し替えくれたんだけどね」

「そうえば、私が『引っ越した』時も雪…副社長がコッソリやってくれたわ」

そう言って、香純は笑った。

香純が言う『引っ越した』時とは―――約1年前、雪さんと香純が『同棲』を始めた時の事。

…2人も早く結婚すればいいのに。

そんな事を話していると、私たちの1歳年下で高校時代の後輩でもある―――“井上七海(いのうえななみ)”が出社して来た。

彼女は8月から『TAKADAホールディングス』入社してきて、この【秘書課】に配属された。

この会社に偶然にも、高校時代から知り合いが集まった形になった。

「おはようございます。香純先輩、深琴先輩」

「おはよ、七海」

「おはよ」

挨拶を交わし終わると、七海が私たちに問いかけてきた。

「…深琴先輩、それなんですか?」

「入籍後に会社に提出する書類よ。…他にも手続きしなきゃいけないし、今週は忙しくなるわ」

「そうえば、今週でしたね。…先輩の誕生日と社長との入籍。羨ましいです」

「深琴は今まで1人で頑張って来たんだから、“夏彦”にちゃんと幸せにしてもらいなさい」

「2人共…」

「香純先輩、本当に“夏彦さん”には相変わらず容赦ないですよね…」

「そうかもね」

「『幼なじみ』の特権よ。深琴と夏輝の件については、特に…」

と、私たちは3人で笑い合った。

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