新社長と二度目の恋 ~御曹司は私も子どもも離さない~

「夏彦、早かったわね」

「あんたのことだから、最初から迎えに来る準備をしてたんでしょ?」

香純は「お見通し」という顔をして夏彦に言う。

「じゃあ、お前は歩いて帰るか?」

「夏彦が私も待ってろって言ったんでしょ!?」

「香純、うるせぇよ。…暁人のヤツ、お前と深琴のことを知らないみたいだぜ。夏彦」

「ああ、今日1日の様子から見てそんな気がした」

夏彦が一月にそう答えてると、今度はその隣にいた暁人のほうに目線を向けた。

「…島田、お前がウチの会社に転職して来た事と香織が帰国する事とは関係があるか?」

そう問われると、暁人は少し黙り込んで再び重い口を開いた。

「…数か月前、『八柳グループ』で高田社長と深琴を見かけました」

確かに私は社長秘書になってから、もう何回か『八柳グループ』に夏彦の秘書として行った事がある。

だけど、暁人の存在には私は気付かなかったらしい。

「俺が転職した理由は、深琴と一緒に働いてみたかったという気持ちもありますが…香織の『婚約者』であるあなたを知りたかったかです」

「…っ」

私は暁人の『香織の婚約者である』という言葉に胸がザワつく。

「どう意味だ?」

夏彦より先に、一月が暁人にそう問いかけた。

「…高田社長は、香織のことをどう思ってるんですか?」

「お前に関係ない。…深琴、香純。行くぞ」

「うん」

「はいはい」

夏彦は私に手を差し出して、お互いの手を重ねた。

「…っ!」

それを見ていた暁人が、よやく私たちの関係が仕事の柄だけじゃないと悟ったような顔をした。

「もしかして…」

「あら、やっと気がついた?深琴が夏彦の『本当の婚約者』なのよ。もう『夫婦』って言ったほうが正しいかもしれないわね」

香純がそう言って、私に微笑んだ。

「嘘…だよな?だって、香織が『“高田夏彦”という婚約者がいる』って…」

「あんたが香織とどういう関係で、夏彦のことをどう聞いたのか知らないけど…香織のせいで…っ」

「その辺にしとけ、香純。島田に言っても意味がない」

と、夏彦が香純にそう言って止めた。

「…そうね。今日ところは暁人もいろいろ混乱してるだろうし」

「俺は暁人と歩いて帰る」

「そうか…」

「じゃあ、また明日ね。一月、暁人」

「おう、また明日」

「……」

暁人はなにも言わずに、ただ夏彦に手を引かれて歩き出す私の姿を見つめていた。


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