新社長と二度目の恋 ~御曹司は私も子どもも離さない~
しばらくして、フロアにセミロング系でダークブラウン系の『幼なじみ』が入って来た。
「久しぶりね、夏彦。逢いたかったわ」
香織は、付け加えるように俺と一緒にいた雪と香純にも再会の挨拶をした。
「…香織」
「なによ、やっと留学を終えて『婚約者』が帰国したのに!」
その言葉に秘書課の社員たちから緊張感が伝わってくる。
暁人は少し顔を背け、香純もなにかに耐えて体を震わせ、雪は社員たちが見ているかもしれないのに香純を落ち着かせるために腰に腕を回して距離を詰めた。
「なにが『婚約者』だ。“お前”とは婚約した覚えはない」
「なにを言って……」
そこで、俺はわざと左手薬指の婚約指輪(エンゲージリング)を見せつけるような素振りをする。
婚約指輪に気づくと、香織は目を大きく見開いて息を呑む。
「――――――っ、なによ。それ…」
「結婚するのよ、夏彦。明後日」
香純が鋭い目線を向けて、香織にそう言った。
「嘘…よね?」
香織は信じられないというような顔をして、小さく言葉を零す。
本来なら、課の社員たちの前でする話じゃないだろう。
でも、数年ぶりに香織を前にしたら…俺も香純も冷静を装っている雪も『社長室で話す』という考えはどこに吹き飛んでいた。
「―――香織。お前、4年前…俺の『本当の婚約者』になにをしたか、まさか忘れたのか?」
俺は冷たい目線で、香織に言い放つ。
「な、なにを言ってるよ。『本当の婚約者』って―――誰のこと?…」
…あくまでも、なにも知らないフリをする気か。
「―――とぼける気か?…夏彦の『婚約者』だと偽って“彼女”に【小切手】を押しつけといて…?」
俺と同じ事を思ったのか、雪が言葉を冷たく代弁した。
「…っ!どうして…」
―――その時だった。
「…どうして、香織さんが…ここに…?」
その声に気づいてそのほうを向くと、明らかに香織を目にして動揺している深琴がいた。
俺は素早く深琴に駆け寄った。
「大丈夫か?深琴…」
「…夏彦」
俺が手を差し出すと、普段は決して他の社員たちの前では呼ばない俺の名前を呼んで、深琴は迷う事なく自分の手を重ねた。