新社長と二度目の恋 ~御曹司は私も子どもも離さない~


【深琴】


「…どうして、香織さんが…ここに…?」

フロアに入ると香織さんの姿があり、体が震えてその場を1,2歩無意識に遠ざけた。

夏彦が動揺している私に気づいて、駆け寄って来た。

「大丈夫か?深琴…」

「…夏彦」

夏彦に手を差し出されると、普段は決して他の社員たちの前では呼ばない彼の名前を自然に呼んで、迷う事なく自分の手を重ねた。


…大丈夫、『4年前』とは違う。

堂々としてればいい。

今は、隣に夏彦がいるんだから…。


深呼吸して夏彦の手を離して、ゆっくりと香織さんに近づいた。

課の全員が静かに固唾を呑んで見守ってくれている。

「―――ご無沙汰してます。香織さん」

「…っ、どうして、あなたがここにいるのよ!?」

「私は今、社長―――夏彦の『第一秘書』として、ここの会社に勤めています」

「ふさげるじゃないよ!…っ」

―――バッシン。

香織さんに思いっ切り、頬を叩かれた。

「「「……っ!!」」」

さらに、周りの空気が張り詰める。

「やめろ、香織。―――深琴、すまない」

夏彦は私を抱き寄せて、頭を撫でた。

「うんうん、このくらい平気よ」

その時、私たちの薬指に嵌めている婚約指輪が同じデザインだと気づいた香織さんが凄い敵意を向けて睨んでくる。

「…どんな手を使って、私の『婚約者』を奪われたの?じゃないと、夏也おじさまが認めるはずがないわ!」


…なんて、自分勝手な言いぐさなの?


「お前、いい加減に――――」

―――バッシン。

夏彦が最後まで言い切る前に、香織さんに近づいて彼女の頬を強く叩いたのは香純だった。

「…いい加減にしなさい、香織」

「…おい、香純」

雪さんが社員たちが見ているにも関わらずに、香純の名前を呼ぶ。

「…もう我慢できないわ。香織、私と雪は一度もあんたが夏彦の『婚約者』だとは聞いた事がない」

「…嘘よ」

「嘘だと思うなら、八柳おじさまに聞いてみたら?」

「なにかの間違いよ!」

「…お前がどう思うが、俺は深琴と結婚する」

夏彦は、はっきりと香織さんの目を見て真剣な面持ちで言う。

「諦めない…」

そう言い残して、香織さんは【秘書課】を出て行った。



「…私には、時間がないのよ。どうすればいいの?―――暁人」

そう下の階に下り行くエレベーターの中で、香織さんが手をお腹にあてて…悩んでいた事を私たちは、まだ知る由(よし)もなかった。


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