新社長と二度目の恋 ~御曹司は私も子どもも離さない~
定時が過ぎ、他の社員たちが少しずつ「お先に失礼します」と帰って行く。
私と香純たちも今日の仕事を終えて、帰り支度をしていると、夏彦の声に似ている人物に名前を呼ばれた。
「深琴ちゃん、今から帰るのか?」
そう言って、会長―――お義父さまと副会長―――冬也おじさまが【秘書課】に入って来た。
その場に一緒にいる暁人と七海と彰さんは、突然の2人のご登場に一瞬動きが固まっていた。
最近では、お義父さまとお義母さまから“さん”付けではなく“ちゃん”付けで呼ばれるようになっていた。
もう両親を亡くしてる私にとっては、それが“嫁”というよりも実の娘のように接してくれているようで嬉しく感じている。
私と香純は2人に軽く頭を下げる。
「「お疲れ様です。会長、副会長」」
「そんなに、固くならなくていい。定時は過ぎた」
「深琴さんと香純ちゃんは真面目だな~。本当に夏彦と雪にはもったいないくらいの2人だ!ハハハァ」
お義父さまに続いて、冬也おじさまが言う。
「…冬也おじさま、ここは会社ですよ。恥ずかしいのでやめてください…」
香純に釣られて、私も顔を赤くしてた。
お義父さまと冬也おじさまの笑いが落ち着いたところで本題の質問をする。
「…それで、なんのご用でしょうか?お義父さま。…夏彦でしたら…」
「いや、これを渡しに来ただけだ。深琴ちゃんに渡しておこう」
そう言われて、受け取ったのは封筒に入った【婚姻届】。
証人の欄は、小日向家からは亡き父に代わって弟の朔也と、高田家からはお義父さまにサインをお願いした。
「ありがとうございます」
「遅くなってすまない。…それと、無理はしないように!なにかあったらすぐに言いなさい」
そう言って、お義父さまは私のお腹のほうに一瞬目線を向けた。
「どうして、それを知って…」
「もちろん、夏彦だ。『深琴が妊娠した』っと、知らせを受けたよ♪」
お義父さまは、そう微笑んだ。
…いつのまに!?早っ!!
その後、その場で話を聞いていた香純たち4人から「おめでとう!」と祝福を受けた。
お義父さまと冬也おじさまが【秘書課】を後にしたタイミングで、夏彦と雪さんがそれぞれの部屋から出て来た。
「あれ?もしかして、親父と伯父さんが来てた?」
「うん、深琴にサインした【婚姻届】を夏也おじさまと一緒に渡しに来たみたいよ」
雪さんの問いに香純は答えて、私の妊娠も報告した。
「…夏彦、深琴さん、おめでとう。『2人目』、俺の予想よりも早かったね♪」
雪さんがわざとらしく言う。
「…っ、ありがとう。雪さん」
「…悪いか?事実上は、俺と深琴は4年前から『夫婦』なんだが…」
夏彦も同じくわざとらしくそう言い、少し頬を緩めて雪さんを見た。
「そんなの、もうみんな知ってるよ」
そう言って、雪さんは笑った。