新社長と二度目の恋 ~御曹司は私も子どもも離さない~
本当に愛する人
【深琴】
翌日。
仕事を終えて、近所のスーパーで買い物を済ませてマンションのてエントランスの前で聞き覚えある声に呼び止められた。
「…勝手に人の『婚約者』の子どもを産むなんでね…」
私の目の前に現れた香織さんが冷たい目線を向けて静かにそう言った。
「…ねぇ?深琴さん。あなたは夏彦の『愛人』ってことでどうかしら?そしたら、深琴さんと夏彦の息子―――夏輝くんの認知も許すわ」
「…っ!?」
香織さんの思いがけない提案に背中にゾクっとした。
…この人は、どこまで自分勝手なの!?
どうして、そこまでして…?
「だから、夏彦の“妻”の座は私にしてよ」
「―――断る」
後ろからそう声がして振り向くと、夏彦が近づいて来て私を支えるように腰に腕を回した。
「夏彦、仕事は?」
いつもの夏彦がウチに帰って来る時間よりも今日は少し早い気がした。
「嫌な予感がして、急いで片付けて帰って来た。俺の勘は当たったようだな」
「夏彦…」
私に「もう大丈夫」と言った後、夏彦が目線を香織さんのほうへ向けて口を開いた。
「香織、そんなに俺が好きなのか?」
「そんなの当たり前でしょ!…好きだった!だから、深琴さん。夏彦と結婚しないで!…じゃないと私―――」
香織さんは、涙を潤ませて私と夏彦を思いを訴えてくる。
「―――お前と夏彦の結婚は、俺が認めん!」
「……」
そう言って、どこからか現れたのは香織さんの父―――八柳社長とその後ろに黙って控えている暁人だった。
思いがけない八柳さんの登場に、香織さんは「なんで…」と言葉を失った。
「…続きは、中で話ししましょう」
そう言って、夏彦と私はこの場にいる全員をウチの中へ案内した。