新社長と二度目の恋 ~御曹司は私も子どもも離さない~
【夏彦】
リビング。
部屋に入って、俺はみんなをとソファーのほうに「こちらへ」と案内し、深琴が素早くキッチンに行って全員分のお茶入れた。
八柳おじさん・暁人と香織は向かい合うように座わり、俺は八柳さおじさんの横側に座った。
深琴は「どうぞ」と全員にお茶を配って、俺の隣に座る。
「…深琴さん、ウチのバカ娘がまたバカな事を言ってすまない」
八柳おじさんは、そう言って深琴に頭を下げた。
「…いいえ、とんでもありません」
「夏彦も連絡ありがとう。…夏輝くんはどうしたんだ?」
今度は俺に目線を向けてきて言う。
「八柳おじさんに連絡を入れた後、義弟に保育園からそのまま預かってくれるように連絡を入れたので大丈夫です」
あの場所で深琴と香織さんを確認してすくにみんな連絡を入れてから、2人の前に姿を見せた。
「朔也に頼んでくれたね。ありがとう」
深琴はホッとした顔をして、俺にそう言った。
これからする話は夏輝に聞かせるような話ではないし、今のままでは香織と夏輝を逢わせるわけにはいかない。
八柳おじさんがお茶を一口飲んで、「さて…」と呟いて怒り籠った顔で香織を見つめて重い口を開いた。
「香織、…お前は『高田家』の“嫁”には相応しくない」
八柳おじさんから冷たくそう言い放たれてしました香織は、顔を俯(うつむ)いて自分の膝の上で拳を握った。
「…っ、どうしてよ。私は夏彦がずっと好きだったし、『父さんたちは私と夏彦を結婚させる気なんだ』って思ってた。だから私は夏彦の『婚約者』として振る舞って来たのに…!この女が…邪魔を―――…」
香織が深琴を睨んだ。
「…それだけの理由で、八柳社長のお金を使って深琴を誤解さて夏彦と別れさせたのか?」
香織の横で、今まで黙って座っていた暁人が言う。
「そうよ、深琴さんだって、黙って受け取ったじゃない?」
「違うわ!あなたが一方的に押しつけたんでしょ!」
「お前っ…!どこまで…」
俺はと深琴はそう言いなら、怒りを踏み締める。
「いい加減しろ!香織。お前が俺のお金を夏也のお金と言って深琴さんに一方的に押しつけたのは裏が取れている」
八柳おじさんが【5千万】と書かれた小切手を証拠に香織の目の前に差し出すと、一瞬驚いた顔を浮かべてなにかを諦めたように口を開いた。
「このお金使わなかったね。深琴さんは夏彦の『家柄』目当てで彼に近づく女とは違ったのね」
「そうだ。深琴さんはこのお金を使わずに俺に返してくれたんだ」
「本当に深琴らしいです。俺の『親友』はそうヤツなんですよ。八柳社長」
暁人は自分の親友をそう言って、八柳社長に自慢げな顔をした。
それから、俺の横で少し照れていた深琴に「話を戻しましょう」と言われて今度は俺が口を開いた。
「…香織、今まではっきりと言わなくて悪かった。俺は深琴を愛してる。だから、『幼なじみ(友達)』以上の関係にはなれない。ごめん」
俺がそう言うと、香織は小さく息を吐いた。
「…やっとちゃんと私に『答え』をくれたね、夏彦。…これで『婚約者』のフリも、私の『嘘』も終わりね」
そう言って、香織は俺に微笑んだ。
「香織、お前。もしかして…深琴と夏彦を試してたのか?」
「そうよ。夏彦が私を”女”して見てくれなかったし、私も告白できなくて…大学時代には諦めたわよ。でも、夏彦の『家柄』目当てで近づく女には渡したくなくて周りには『婚約者』として振る舞ってたのよ」
香織の横にいる暁人がそう問うと、さっきの態度とは違って落ち着いた様子で淡々(たんたん)と答えた。
「そういう事なら、一言くらい言えよ…」
「俺には説明しとけよ!」
「え~~、それじゃ面白くない~~!」
その言葉に、俺と暁人は呆れてため息をついた。
「深琴さん、今さら謝っても遅いけど…ごめんなさい。…ただ、あなたが夏彦の『家柄』とか関係なく付き合ってるのが信じられなくて…結果的に別れるように強要してしまったの」
「そうだったのね。私はもともと本当に夏彦が御曹司だって知らなかったし、それは絶対にありえないわ」
「…今なら、深琴さんのことを信じられるわ。夏彦も今までごめんなさい」
香織は俺と深琴に深々と頭を下げた。
…これは、香織の本心だろう。
昔…ずっと俺を好きだったからこそ、俺が本気で愛してる深琴を試したかったのかもしれない。
やり方は許さないけど、今ならそう考えられた。