新社長と二度目の恋 ~御曹司は私も子どもも離さない~
【雪】
夜、リビング。
香純が夕食の支度をして、キッチンからいい匂いが漂ってきた頃。
ソファーの前の机に置いてあった携帯が鳴った。
―――【着信:高田夏彦】
「はいはい、どうした?夏彦」
そう言って、電話に出た。
「…今、大丈夫か?」
「ん、大丈夫だけど…」
「…香織のことだけど、解決した。深琴も香織も『これからは、いい関係を築きたい』と言ってる」
「なんか、急展開だな…」
俺は苦笑いをした。
「香織は『八柳家』から半分『勘当』という形で――そのまますくにでも暁人と結婚する事になるだろう」
「はぁ!?ちょっと、待て。…香織が勘当された!?暁人と結婚!?」
夏彦の言葉に俺が大声を上げてしまい、食卓のテーブルに夕食を置いた香純が「なになに?」と近づいて来た。
夏彦に「香純もいいか?」と確認してスピーカーのボタンを押した。
そして、夏彦から『事の詳細』を聞いた。
夏彦に香織への気持ちがないとわかっていても、周囲に『婚約者』だと振る舞い、深琴さんとの『4年前』の事も彼女曰く「夏彦のため」だったらしい。
「…なにが『夏彦のため』よ!やり方がおかしいわ!少なくとも、夏彦と深琴が出逢う前の最初のほうはただの香織の我儘じゃない!」
―――『夏彦を誰でも渡したくない』いう想い。
「そうだな、俺もそう思うよ…」
ため息混じりで、夏彦が言う。
「香純、気持ちわかるけど少し落ち着け」
と、背中をさする。
「…んで、香織が形たけでも勘当されたからって言っても…よく八柳おじさんが暁人との『結婚』をすんなりと認めたな」
「…まぁ、香織が妊娠してたからな。深琴とは1ヶ月違いらしい」
「はぁ!?あの子、暁人との子を妊娠してるのに夏彦の『婚約者』だと言い張ってたわけ!?」
「…だからこそ、香織は焦ってたかもしれない」
「…ああ。ともかく、もう俺たちのことは心配いらないから…雪、お前もさっさと香純にプロポ―――」
「なっ、あ――、わかってるよ。…じゃあな、夏彦」
夏彦が言い切る前に、慌てて電話を切った。
…夏彦ヤツ、香純も聞いてたのに。
「…ねぇ、雪」
「ん?」
名前を呼ばれて、隣に座る香純に目線向ける。
「私たちも…そろそろ。夏彦と深琴も無事に結婚できそうだし…」
香純の言葉に一瞬ハッとする。
…いいんだな。今プロポーズしても…。
ムードも、まったくないが…。
「雪?」
俺は無言で立ち上がって寝室に入る。
小さい箱を手に香純の目の前に戻ると、そのまま床に両膝をついた。
「…夏彦とお前に先を越された感じになったけど、用意はしてたんだ」
そう言って、箱を開ける。
中身はもちろん、ダイヤモンドが輝く婚約指輪(エンゲージリング)。
「雪…」
「香純、俺と結婚してくれるか?」
「…その言葉を待ってたわ!」
「…待たせたな。香純、愛してる」
お互いに微笑んで、俺たちはキスをした。