*伝説と言われたあの子*
ちょっぴり奇妙な光景が数分続き、

『まさか知らないのか?』

恐る恐る口を開いたのは、彼の方。



聞かれた意味も分からず、ただ瞬きを繰り返した私

それを同意と取ったらしい彼は珍獣を発見した冒険者、みたいな顔で私を凝視してきたが、

それも数分で終わり。

何かに気付いたかの様に、ハッと息を飲む。


『まさかキミが例の転校生‥‥?』

『?』



お洒落なメガネを押し上げ、彼はまじまじと観察するようにして私の格好を眺めた後、

『この時期の転校生、なんてそうそうないからな‥‥噂になっていたんだよ』

ゆっくりとした口調で教えてくれる。

『そう、なんですか‥‥?』

『あぁ。とは言っても、この学校がエスカレーター式なのもあってね外部生なんて余りいないから。

それに転校生なんて‥‥前代未聞だろうな』



ポツリと呟かれた最後の言葉は聞き取れず、ただただエスカレーター式と言う言葉に首を傾げた。

え、えすっ、エスカレーター式って、

校内にエスカレーターがあるってこと‥‥?



1人、早とちりをして。

軽くドン引きしたのは言うまでもない。


高校生なんてまだ若いんだから‥‥階段でいいじゃん

そう胸中で溢した声は誰にも届く事がなく



話が噛み合っていない事を、私も彼も気付かないまま話が進み、


『今から職員室に向かうのか?』

『あ、いえっ、理事長室?に行くように言われてて』

『‥‥理事長室?』

『はい、‥‥そう言われたんですけど、迷ったみたいで』




心なしか、『迷った』の言葉だけ小声になったのは仕方ない。

人様に迷いました、なんて報告することがこんなに恥ずかしいなんて想像してなかった。


そっと目を逸らすようにして俯けば、

『そうか、ここは広いしな。心細かっただろ』

頭上からふってくる優しい声色。
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